岩波氏:多くの方が「発達障害」という言葉を、「糖尿病」や「胃がん」のような疾患名だと誤解しています。発達障害とは、あくまで「総称」なのです。では何の総称かというと、「生まれつきの脳機能の偏り」を持つ状態を示しています。脳機能に偏りがあるために、思考パターンや行動パターンが独特の特徴を持つようになります。
「脳機能の偏り」であって「疾患名」ではない。
発達障害は「脳の個性」。「治すべきもの」ではない
岩波氏:「疾患名ではない」ということには、もう一つ意味があります。それは、発達障害は「病気」ではなく、従って「治すべきものではない」ということです。
仮に、うつ病を例にとれば、「生まれつきうつ病」という人はいません。しかし、発達障害は生まれつきのものです。ポジティブに表現すれば、「脳の個性」ということもできますが、個性ですから「治る」ことはありませんし、基本的な特性は変わることはないのです。
「発達障害」についてこれから学ぶ方には、まず「発達障害という疾患はない」ということを分かっていただけたらと思います。
「発達障害」は疾患名ではなく総称であり、個性や特性である、と。それはあたかも「色」と総称されるものの中に、青があったり、赤があったり、黄色があったりするようなものだということですね。では具体的に、どのようなものが発達障害に含まれるのでしょうか。
岩波氏:主には、次の3つがあります。
- ADHD:注意欠如・多動症(Attention—Deficit/Hyperactivity Disorder)
- ASD:自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder)
- LD:限局性学習症(Specific Learning Disorder)
これら3つの他にも、症例は少ないものの、いくつかの疾患が発達障害の概念に含まれています。ちなみに、ASD(自閉スペクトラム症)に含まれる「スペクトラム」という言葉は「連続している」という意味です。症状に濃淡があると捉えていただいていいでしょう。
学習障害児のIQは必ずしも低くない
「学習障害」という略称で知られるLD(限局性学習症)は「知的障害」とよく混同されるのですが、異なる概念です。知的障害の判断においてはIQ(知能指数)に代表される、知能検査の結果が重要な判断ポイントになりますが、学習障害では、知的機能全般には問題はなく、IQは必ずしも低くありません。ただ「読む」「書く」「計算する」など、特定の分野を苦手とします。「限局性」と付いているのはそのためです。
ただ、我々(編集部注:岩波氏が病院長を務める昭和大学附属烏山病院)が主に診ているのは思春期以降の成人の方たちで、成人になってからLDだと分かり、来院されるというケースはそれほど多くはないのです。
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