「発達障害のリアル」を、自身も発達障害(学習障害)の息子を育てるフリーランス編集者・ライターの私(黒坂真由子)が模索する本連載。

 前々回前回に引き続き、『ケーキの切れない非行少年たち』の著者、宮口幸治氏に話を聞く。

 宮口氏が問題視する「境界知能」をはじめとする「知的障害」の問題も、本連載のテーマである「発達障害」も、最初のハードルは「障害の存在に気づく」ことにある。周囲の人たちが障害の存在に気づいて初めて、当事者がさまざまな配慮を受けることが可能になる。

 しかし、障害に配慮するばかりでは、伸びる能力も伸びなくなってしまうと、宮口氏は警鐘を鳴らす。

 さまざまな障害を持つ人を支援しながら、一人ひとりの可能性を最大限引き出すには、どうしたらいいのか。知的障害と発達障害の問題を起点に、多様性が増す現代社会に求められるリーダーシップのあり方を考えた。

境界知能と軽度知的障害の子どもへの対応として、小学校低学年の段階で気づくことが大事だとうかがいました(前回参照)。学校の先生が知的障害や発達障害について詳しければ、子どもも学校で随分、過ごしやすくなりそうですね。

宮口幸治氏(以下、宮口):そうなんです。例えば、身体的に不器用な子っていますよね。これが「発達性協調運動症(*)」と呼ばれる障害であれば、手先が不器用だったり、力加減がうまくできなかったりして、よく物を壊してしまったりするんです。そういうことを知っていれば「ちょっと工夫してあげないといけないな」と思いますし、配慮に結び付きます。

*発達性協調運動症(発達性協調運動障害)、Developmental Coordination Disorder

親は子どもが境界知能や軽度知的障害かもしれないと思ったら、やはり先生には伝えていったほうがいいということですよね。

宮口:信頼できる先生には伝えたほうがいいですね。ただ、希望通りの配慮はあまりしてもらえないのが現状なんです。

そうなんですか。学習障害(*)があるうちの息子の場合、学校で合理的配慮(*)をしてもらえて、漢字の「トメ・ハネ」に関しては厳しく問われませんでした。ですから伝えれば大丈夫なのかなと漠然と思っていたのですが。

* 限局性学習症/限局性学習障害(学習障害)、LD (Specific Learning Disorder)
* 合理的配慮:必要に応じて既存の体系・システムに加える修正のこと。障害者からの意思の表明に基づいて、個別に提供される。公的機関は過剰な負担でない限り提供の義務があり、事業者にも努力義務がある。2016年に施行された「障害者差別解消法」の中にも組み込まれている概念。

宮口:そういった配慮で、ちょっと不安に感じることもあります。

宮口幸治(みやぐち こうじ)
宮口幸治(みやぐち こうじ)
立命館大学教授。一般社団法人日本COG-TR学会代表理事。医学博士、臨床心理士。京都大学工学部を卒業後、建設コンサルタント会社に勤務。その後、神戸大学医学部を卒業。児童精神科医として精神科病院や医療少年院、女子少年院に勤務。認知機能を向上させるトレーニング「コグトレ」を開発。コグトレの普及、研究のための「日本COG-TR学会」を主宰。『ケーキの切れない非行少年たち』『どうしても頑張れない人たち』(ともに新潮社)『マンガでわかる 境界知能とグレーゾーンの子どもたち』(扶桑社)など著書多数。

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