IQ74は知的障害ではないのか?
IQ74の女子大生が知的障害とされないのは、現在、知的障害の基準が「IQ70未満」だから、ですね(前回参照)。
宮口:その結果、この女子大生には完全責任能力が認められ、東京地裁は21年に、懲役5年の実刑判決を下しました。ただ東京都では、軽度知的障害の障害認定のIQ基準が「おおむね50から75」となっているんですよ。
知的障害の障害認定基準は都道府県によって微妙に違うと、前回うかがいました。ということは、生まれ育った場所によって、知的障害とされるかどうかが変わってしまうということですね。そもそも知的障害の基準を「IQ70未満」とするのは1970年代以降のことで、それ以前は「IQ85未満」が基準だった時期もあった、と。
宮口:そうです。ですから見方によっては被告の女子大生は境界知能ではなく、知的障害といえるわけです。この線引きの違いが責任能力の判断に影響を与えるならば、判決が変わってくる可能性があります。
東京地裁の判決文は、この事件が「強い殺意に基づく執拗かつむごたらしい犯行」であり、被告は「身勝手で短絡的」だと批判します。しかし、この「身勝手で短絡的」に見えるというのが、まさに知的障害の特徴の一つなんですよ。先のことを考えるのが苦手だから、パニックになってしまい、裁判所のいう「一時しのぎな言動」に出てしまう。弁護側は「相談できる人がいれば起きなかった」と主張しましたが、うまく人に相談できないというのも、知的障害によく見られる特徴です。これだけ明確に知的障害の様相を示しているのに、それが悪い方向にばかりとられてしまう。
私はこれがすごく大きな問題だと思っています。先日もある県で裁判官向けに境界知能について講演をしたのですが、皆さん、あまりご存じではないんです。「知的障害ってそもそもどういう状態を指すのですか?」というレベルの方もおられました。そんな方々が判決を下すこともあるんです。これは恐ろしいことだなと。冤罪で12年服役された方もいます。
12年も……。
Powered by リゾーム?