「発達障害のリアル」を、自身も発達障害(学習障害)の息子を育てるフリーランス編集者・ライターの私(黒坂真由子)が模索する本連載。

 発達障害に対応するとき、直視しなければならないのが、知的障害の有無。「発達障害に知的障害が伴うかどうかで、生じる課題や対応策は異なる」。こう指摘するのは、『ケーキの切れない非行少年たち』などの著作で知られる、立命館大学教授の宮口幸治氏。

 宮口氏が特に問題視するのは、「知的障害」と診断される人のなかでもIQ(知能指数)が50~70と比較的高い「軽度知的障害」と、そもそも知的障害と診断されないのが一般的な、IQ70~85の「境界知能」。軽度知的障害や境界知能の子どもたちは見過ごされやすく、そのまま大人になった結果、冤罪(えんざい)事件も生まれているという。

 見逃された軽度知的障害や境界知能が生む冤罪とは、どのようなものか?
 軽度知的障害や境界知能を見逃さないためには、どうすればいいのか?
 見つけたときには、どう対応すればいいのか?

 そんな疑問をぶつけた。

宮口先生が問題視する「気づかれない境界知能や軽度知的障害」は、冤罪につながることすらあると、前回うかがいました。それが事実とすれば衝撃的ですが、どういうことなのでしょうか。

宮口幸治氏(以下、宮口):最近のケースでは、2019年、神戸在住の女子大生が羽田空港のトイレで産み落とした赤ちゃんを殺害し、公園に埋めた事件がありました。公判前の検査によると、彼女のIQは74でした。

IQ74というと、先生のいう境界知能に当たりますね。

宮口:はい。しかし、境界知能は一般に、知的障害とはされません。

宮口幸治(みやぐち こうじ)
宮口幸治(みやぐち こうじ)
立命館大学教授。一般社団法人日本COG-TR学会代表理事。医学博士、臨床心理士。京都大学工学部を卒業後、建設コンサルタント会社に勤務。その後、神戸大学医学部を卒業。児童精神科医として精神科病院や医療少年院、女子少年院に勤務。認知機能を向上させるトレーニング「コグトレ」を開発。コグトレの普及、研究のための「日本COG-TR学会」を主宰。『ケーキの切れない非行少年たち』『どうしても頑張れない人たち』(ともに新潮社)『マンガでわかる 境界知能とグレーゾーンの子どもたち』(扶桑社)など著書多数。

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