「手を抜く」などという器用なことはできない

鈴木:発達障害がある人の場合、普通の人より仕事を覚えるまでに時間がかかることが多いので、3カ月や6カ月くらいで「この仕事は合わない」と結論づけるのは早すぎると思います。

 あとは繰り返しになりますが、本人の得意・不得意を把握することが大事です。発達障害がある人には「手を抜く」なんていう器用なことはできません。ずっとできないことがあったら、その人にとってはどんなに頑張ってもできない可能性が高い。やる気がなくてできないのではない、ということです。

「やる気の問題にしない」ということですね。怠けているとかふざけているとかではないってことですよね。

鈴木:そこは理解しておいたほうがいいですね。むしろ頑張りすぎて疲れ果てているケースのほうが多いはずです。

文字で伝える。1時間ごとに伝える

職場でコミュニケーションをとるときのコツはありますか。

鈴木:指示は文字で伝える、1時間に1回伝える。1日に1回伝えるのでは忘れてしまうので、1時間に1回。これが結構、大事だったりします。

 いつ何をしたらいいかが分かりやすいように、時間割表をつくったり、「ここにいるときはこの仕事をする」と、仕事の内容と仕事をする場所をリンクさせたり。こういう工夫を私は「構造化」と呼ぶのですが、分かりやすさへの配慮は重要になってくると思います。

 あとは、とにかく視覚化して伝えることですね。例えば、何を説明するときもホワイトボードに書きながらするとか。私はもう癖になりました。いつも学校で先生が授業をしているような感じです。

視覚化すると、よく伝わりますか?

鈴木:ええ。情報には大きく分けて、視覚情報と音声情報があります。視覚情報は見返すことができますが、音声情報はその場限りです。相手に確実に伝えたいときには、見返すことができる視覚情報を使うことを意識するといいと思います。

口頭で伝えるだけではなくて、プリントやメールでも伝えるということですね。見返すことができるように。

鈴木:コミュニケーションの問題を「得意・不得意」だけで片付けてしまうと、発達障害がある人には応用できません。コミュニケーションのどこが得意でどこが苦手か、どういう対策をすれば伝わるかと考えたとき、文字や映像といった「形に残るコミュニケーション」と、その場限りの「形に残らないコミュニケーション」に分けて考えることには意味があると思います。

 発達障害がある人には発信より受信が苦手な傾向があります。ですから、こちらから伝えたいことをきちんと理解してもらうということが、一緒に仕事をしていくうえで重要なんですね。「コミュニケーション」というと、どうしても「うまく伝えられない」とか「話せない」と考えてしまいがちですが、実は「きちんと受け取ってもらえていない」ことが問題で、「受け取ってもらうにはどうしたらいいか」という方向で考えると、解決策が見えてくることがあります。

 同じことを何度も繰り返して言うのも大事です。多くの人は1回指示するとそれで終わりにしてしまいますが、細かく何度も指示することが大切です。「刷り込む」くらいでちょうどいいと思います。

でも、「何度も言ったら失礼かな?」と思ってしまうんですよね。

鈴木:その気遣いは要らないことが多いです。

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