発達障害の自覚がある人こそ、採用すべきだ

鈴木:濃淡はありますが、発達障害者は日本の全人口の10%程度を占めるともいわれています。ですから普通に考えれば、大抵の会社でもうすでに雇用しているはずなんです。

 御社がこれまで採用して、才能を発揮してくれた人のなかにも、逆にうまく生かせなかった人のなかにも、発達障害がある人はいたはずです。そういった意味で、皆さんはすでにメリットもデメリットも感じているはずです。異能というメリットだとか、そそっかしくてコミュニケーションをとるのが難しいといったデメリットだとか。

だから、これから新たに発達障害がある人を採用し、職場に受け入れることをためらわなくてもいいじゃないか、と?

鈴木:特に障害者雇用の場合、言い方は悪いかもしれませんが、身体障害に比べると発達障害は人気がないので、いい人材を採りやすいはずです。

 前々回にお伝えしたように、障害者雇用で企業が採用したがるのは身体障害の人たちで、採用は争奪戦です。発達障害者を採用したいと考える企業は少なく、いい人材が多く残っていると私は感じています。

 また障害者雇用という枠組みのなかで応募する人は、きちんと自身の障害を認め、自分自身の影形(かげかたち)が分かっています。ですから一般雇用で入ってくる発達障害者よりも、企業側としては活用しやすいはずです。

逆にいえば、一般雇用で入ってくる発達障害者は自身の特性を理解していない可能性もあるということですね。

鈴木:そうです。

デメリットはいかがでしょうか?

鈴木:発達障害がある人と働く難しさは、やはり障害が目に見えないことです。活躍してもらうまでにコミュニケーションコストがかかる。そこはやはりデメリットとして挙げられると思います。

 ただ、これからはどこの会社でも発達障害に限らず、いろいろな意味での少数派が増えてくるはずです。そういった人々とうまくやりとりをして、「人事のジグソーパズル」を進めていかなければ、仕事は回りません。発達障害がある人を雇うことは、その練習になります。

国籍やバックグラウンドが違う人と働くのと発達障害がある人と働くのは、ある意味、似ているということですね。

鈴木:逸材を発掘する訓練にもなるはずです。際立った才能を持つ人というのは、みんなが「ちょっと変だな」と思うような人ばかりです。そういう人たちをはじいてばかりいたら、会社は成長しないでしょう。分かりやすいところでいえば、スーパーエンジニアを採用するのは難しくなります。

 発達障害がある人をうまく雇えている会社は、逸材を見つけるのもうまいものです。ちょっとクセがあって扱いづらいけど、営業力がすごい、企画がどんどん出せる、コーディング(*)がすごい、セキュリティーに強いなど、何かに突出している人にどう活躍してもらうか。発達障害者と一緒に働くというのは、逸材を活用する方法を探ることと、ほぼイコールになる可能性があります。

発達障害に限らず、逸材を受け入れる土台が整っていくということですね。発達障害がある人を採用した後、部署に配属したり、職種を決めたりするとき、どこを見ればいいでしょうか。何かポイントはありますか?

鈴木:まず短期間で判断しないことが重要です。

* コーディング 文書やデータを、コンピューターが解釈できるコードとしてプログラミング言語を使って記述すること。
人事のジグソーパズルに取り組み、多様な才能を生かすことは、発達障害の社員がいるかどうかにかかわらず、重要な課題になっている(写真/PIXTA)
人事のジグソーパズルに取り組み、多様な才能を生かすことは、発達障害の社員がいるかどうかにかかわらず、重要な課題になっている(写真/PIXTA)

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