「変えるべき環境」の筆頭は、親かもしれない

鈴木:もちろん夢を諦めてほしくはないし、成功も大切ですけど、失敗して諦める体験も大切ということです。ただ、こういうことを言っても、響く人は数割ぐらいしかいないんですよ。親御さんも含めて。

 親御さんの理解を得るのが難しいことが多いんです。自分の子どもにはやはり、「テストでいい点数を取ってほしい」「普通に反応してほしい」「心の交流がしたい」「ミスなくちゃんとやってほしい」と思ってしまう。「消しゴム、また買うの?」と思わないようになりたいとか。

親は「普通」になってほしいと、願ってしまう。

鈴木:気持ちは分かります。私自身、発達障害がある子の親ですから。どうしても、本人を変えたいと思ってしまうし、今できないことができるようになってほしいし、障害がなくなってほしい。もし高い学歴を得られたら、何かが変わるのではないかと期待してしまう。もちろん、いい大学へ行くのは悪いことではないし、本人の苦手な部分を目立たなくさせる方策の一つではあると思います。だからといって細かな失敗の体験とフィードバックを繰り返すことで、本人が自分自身を知るプロセスが不要になることはありません。

 親御さんの理解を得るのが難しい理由はほかにもあって、お子さんが発達障害の場合、親御さんも発達障害というケースも確率的に高く、そのためにお子さんとの接し方が分からないこともあります。

 それに親というのは、これはもうそういう生き物なんだと思いますけれど、子どもに自分と同じ生活かより良い生活を求める。つまり、自分の価値観を押し付けやすいんですよね。

よかれと思ってですよね。

鈴木:はい。でもそれは子どもにとって、苦しいことが多いんです。発達障害にどう対処したらいいかというと、どの本を読んでも「本人の努力で本人を変えるのでなく、環境を整えましょう」ということが書かれていて、その通りなんです。では子どもにとって一番の環境とは何かというと、先生でもタブレットでもなく、親なんですよ。

 親がどう声を掛けるか、どういう表情をするか、何を認めてくれるか、認めてくれないか。子どもにとっては、これが一番初めに与えられる環境です。ですから、親が冷静に子どものことを見ることは、かなり重要なんです。

親としては、そこが難しくて。私も学習障害がある息子に対し、最初は「この子はおっちょこちょいだから」とか「男の子だから」とか、文字が書けないことにいろいろな理由を付けて「障害ではない」と自分に思い込ませていました。いろいろな方のお話を聞いた末に、息子の障害を認めて診断を受けるまでは、結構つらかったです。

鈴木:いや、難しいです。人にはいろいろ言えますけど、私も難しかったですから。よく覚えています。みんなで砂場に行って遊んでいるとき、うちの子は1人だけ砂をガーッとかぶっていて、他の子と遊んでくれない。周りの親が「大丈夫?」みたいな顔で見ている。つらいですよね。

 長男に発達障害があるのですが、2人目の子には今のところ発達障害の傾向はなく、生後数カ月で私と目を合わせてにこっと笑ったのを見たときには「ああ、こんなに違うんだ」と思いました。目を合わせてくれない子を育てづらいと思うのは、仕方ないことだと思います。親は大変です。でも、子どもには親のサポートが必要なんです。

発達障害の子を持つ親御さんは、いつごろから就労について考えるといいのでしょうか?

鈴木:早ければ早いほうがいいと思います。もちろん小学校低学年のときは、学校に慣れることで精いっぱいになるでしょうから、就労について考えましょうといっても難しいと思います。

 ただ……、こういう言葉遣いでうまく伝わるか分かりませんが、発達障害がある子には「小さな大人」として接することを日ごろから心がけるといいのではないかと思います。

なぜですか?

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