「自分に絶対に向いていない仕事」を知ることが大切
鈴木:そこでKaienでは、さまざまな職業訓練プログラムを用意しています。実際にさまざまな仕事を体験してもらい、成功、失敗を細かく繰り返しながら、自分の影形(かげかたち)を知ってもらいます。自分の特性に、本人がちゃんと納得する、腹落ちするということが重要なんです。実際、そういうことを親御さんや周りとしてきた人は、就職活動もうまくいくものです。自分の得意と苦手が分かっていますから。
鈴木さんが「自分に絶対に向いていない仕事は何かを知ることが大切」とご著書に書かれているのを読んで、思わず膝を打ちました。苦手を知ることは大切ですよね。発達障害の子どもを持つ親としては、つい「できることに目を向けよう」という話に、心引かれてしまうのですが。
鈴木:発達障害がある人が就労する上で、苦手の把握は不可欠です。例えば、脚を失った身体障害者であれば、脚を使う仕事を選びませんし、会社もそんな仕事はさせません。しかし発達障害では、そこが分かりにくい。そもそも本人が「何が苦手か」ということが分かっていないと、会社がそこを把握するのは難しい。
発達障害がある人は、自分の得意・不得意が曖昧なまま大人になってしまうケースが多くて、そのためにゆがんだ夢を抱いたりして、就職が難しくなることがあります。その意味でも自分を知るということが、ものすごく重要なんです。
得意な部分に目を向けるだけでなく、苦手な部分をしっかり把握しておく。そしてそれを伝えられるようになる。それが大切なんですね。
鈴木:勉強であれば、何がどれくらいできるのかは、偏差値である程度の見積もりができますが、向く仕事、向かない仕事には偏差値のような一律の物差しがないため分かりにくい。
いわゆる健常者といわれる人は、自分の仕事の向き不向きを、ある程度、何となくつかめているものです。加えて、もし合っていない仕事に就いても、それなりに対処することができる。だから大被害にはなりません。一方、発達障害の人は自分を客観視するのが苦手で、全然合わない職に就いてしまいやすい。しかも向いてない仕事に自分を合わせるのも苦手なので、大打撃を食らってしまうんです。
それを防ぐのに有効なのが、あらかじめ仕事を体験しておくことです。Kaienが職業訓練プログラムなどを通じて仕事を体験する場を用意しているのは、そのためなんです。
失敗も織り込み済みの体験、ということですよね。
鈴木:そうです。こういう言い方がいいのか分かりませんが、「諦めさせ屋」と呼ぶこともあります。

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