なぜ「障害者手帳を持つことにマイナスはない」のか?

鈴木:障害がある人の働き方は、突き詰めると、大きく分けて2つです。労働契約を結んで働くか、労働契約を結ばすに働くかのどちらかとなります。

 労働契約を結んで働けば、正社員であれ、パート・アルバイトであれ、最低賃金が保証されます。

 一方、労働契約を結ばないものにはフリーランスもありますし、昔でいう「作業所」と利用契約を結んで働くこともあります。作業所で働く場合、最低賃金は保証されず、「工賃」という作業料が支払われます。福祉的就労とも呼ばれ、法律では「就労継続支援B型」として定められています。工賃は平均して月に1万~2万円程度です。

 労働契約を結んで働く場合には、企業側に障害があることを伝えて働くか、あるいは障害の存在を伝えないかで違いが出ます。そこから「一般枠」「障害者枠」という言葉が生まれたのでしょう。

障害があることを伝える、とは?

鈴木:分かりやすいのは、障害者手帳を取ることですね。

企業にとっては、障害者手帳を持つ人を雇用すると「実績」になるんですよね?

鈴木:そうです。企業が労働局に届け出ると、障害者雇用促進法(*)が定める法定雇用率の達成につながり、納付金の支払いを免除されたり、調整金や報奨金、助成金が得られたりします。自治体によっては、入札で法定雇用率を達成している企業を優遇しているところもあります。

 ですから、労働契約を結んで働くという意味では同じでも、障害者手帳を持つ障害者として雇用されることを「障害者枠」と呼んだりします。ただし、法律には障害者枠という言葉はなく、「障害者雇用」です。「一般枠」や「一般雇用」というのは、障害者雇用との対比で使われている言葉で、そういう名前の制度があるわけではありません。

障害があっても、障害がない人と同じように企業と労働契約を結んで働くことを、一般雇用と呼んでいるわけですね。これを企業の側から見れば、同じ人を採用するとしても、その人が障害者手帳を持っているかどうかで、行政からお金がもらえたり、逆にお金を払わなければならなかったりする。となると、就職を希望する側にとっても、障害者手帳を取るか取らないかというのは、大きな選択になりそうですね。

鈴木:実態としてはそうです。企業が障害のある従業員に、こんな言葉をかけることがあります。

 「障害者手帳を持っているだけで、あなたはこの会社の戦力になっているのですよ」と。

 私はこれを、かなり複雑な思いを持って聞いています。なぜなら通常、労働契約というのは「給与とパフォーマンスの関係」に基づいて結ばれるわけです。そこは一般雇用も障害者雇用も、本来は変わらない部分です。

 ただ、障害者手帳を持った人を雇うかどうかで、結果として企業が得をしたり、損をしたりする。だから、障害者手帳を持つことを広い意味での「戦力」と企業側は考える。ですから発達障害がある人が就労を考えたとき、現実問題として、障害者手帳を取るか取らないかというのは、大きな分かれ目になることが多いのです。

 とはいえ、最近では、成功されている起業家などにも、自分は実は発達障害だと公言される方がいます。そういう方々であれば、今から障害者手帳を取るべきかどうか悩む必要はありません。

 ですから、障害者手帳を取ることを誰にでも勧めるわけではないですが、持っていてマイナスになることはありません。所得税の障害者控除など、税の優遇も受けられます。

* 障害者雇用促進法:身体障害者、知的障害者、精神障害者を一定割合以上雇用することを義務づけた法律。障害者の雇用目標割合が「法定雇用率」として定められ、民間企業(従業員43.5人以上)の法定雇用率は2021年3月より2.3%以上。

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