もしも、ASDが多数派の社会だったら?
松本:だから僕は、定型発達の人たちが、発達障害の人に分かってもらおうとする努力があっていいんじゃないかと思うんです。
僕は「ガジュマル」という発達障害当事者会を運営しています。そこではASDの人たちが多数派で、定型発達の人はいたとしても少数派です。そういう環境でASDの人たちが語り合うと、お互い「分かる、分かる」って言うんです。僕もADHD(*)の傾向が色濃くありますが、ASDのみんなが「分かる」と盛り上がっていることのなかに、さっぱり分からないことがある。それで質問すると、逆に、「なんでそう思うの?」と聞かれるんです。
そんなふうにASDの人が多数派で、定型発達の人が少数派の世界になったら、定型発達の人たちのほうが「なにかおかしい」ということになるでしょう。「なんで、表情を読もうとするの?」「発言で判断したほうが、合理的でしょ」などと。
発言で判断した方が合理的。なるほど。
松本:例えば、小学校に行って、授業を参観しているとよくわかります。定型発達の子は、同じタイミングで先生を見て、手を挙げます。そして大体みんな似たような意見を言う。ところが、ASDの子は手の挙げ方もマイペースだし、意見もなかなかオリジナリティーにあふれている。
普通の教室では、定型発達の子どもが多数派ですが、もしも人数が逆転して、例えば、ASDの子が25人、定型発達の子が5人しかいないクラスだったらどうでしょう。きっと「あの5人はおかしい」となるはずです。人数が逆転するだけで、定型発達の均質性が際立ち、異彩を放つと思うんです。なんでこの人たち、みんな同じなの? 同じような考え方をするの? 社会的振る舞いも驚くほど似てるよね、と。
みんなが同じであることのほうが、おかしく映る。
松本:そうです。ASDの研究をすることは、「定型発達って何?」という疑問に答えることでもあるんです。
「普通」とは、何か。
松本:定型発達の人たちは、なぜ多数派の中に入っていけるの? なぜ、みんなが同じようなものの見方、考え方、社会的振る舞いを獲得できるの? ASDの子どもたちを研究しながら、そんなことを考えています。
興味深いお話、ありがとうございました。さて、松本先生は、今年4月2日~9日、世界自閉症啓発デーに合わせて開催される「第1回自閉症学超会議」で、発表を予定されています。オンラインで誰でも参加できますので、ご興味のある方は、のぞいてみてください。
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