「発達障害のリアル」を、自身も発達障害(学習障害)の息子を育てるフリーランス編集者・ライターの私(黒坂真由子)が模索する本連載。
前回、前々回、に引き続き、2017年に刊行した『自閉症は津軽弁を話さない』(福村出版、角川ソフィア文庫)で注目を集める研究者、松本敏治氏のインタビューをお届けする。
現在では、自閉スペクトラム症(ASD、Autism Spectrum Disorders)と呼ばれる「自閉症」の子どもたち。その子たちが、なぜか方言を話さない。そんな不思議な発見から始まった研究が、実はASDの中核症状に関わることが明らかになっていく。松本氏の「謎解き」のプロセスを追いながら、ASDの本質を探る。
「ASDの子どもは方言を話さない」というお話をうかがってきました。成長するにしたがって、方言を話すようになるASDのお子さんもいるのでしょうか?
松本敏治氏(以下、松本):共通語しか話さなかったASDの子どもが、方言を話すようになったケースはあります。
ただ、「成長するにしたがって」と言えるかというと、微妙です。なぜかというと、事例を集めてみたところ、話し出した時期が小学生から社会人まで、ばらばらだったからです。
調査して見えてきたことはあります。それは、「方言を話すようになった時期に、同世代の人に対する興味・関心が芽生えている」ということ。そして、「方言を使い出したことによって、同世代との関係性が変わっている」ということです。例えば、同世代の集団に入ろうとするとか、同世代の人と一緒に何かをしようとしたタイミングで、方言を話すようになっている。そして方言を話すようになるのと同時に、人と関わるための社会的スキルも伸びています。
やはり方言というのは、人との距離を縮めるための強力な社会的ツールなんですね。
松本:面白いのは、方言を使うようになったきっかけとして、家族は出てこないことです。
なぜだろう……。

1957年生まれ。博士(教育学)。公認心理師、特別支援教育士スーパーバイザー、臨床発達心理士。1987年、北海道大学大学院教育学研究科博士後期課程単位取得退学。室蘭工業大学助教授などを経て、2000年弘前大学助教授、2003年同教授。同大学教育学部附属の特別支援学校長、特別支援教育センター長を歴任。現在、教育心理支援教室・研究所「ガジュマルつがる」代表。
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