「発達障害のリアル」を、自身も発達障害(学習障害)の息子を育てるフリーランス編集者・ライターの私(黒坂真由子)が模索する本連載。
前回に引き続き、2017年に刊行した『自閉症は津軽弁を話さない』(福村出版、角川ソフィア文庫)で注目を集める研究者、松本敏治氏のインタビューをお届けする。
(前回はこちら)
現在では、自閉スペクトラム症(ASD、Autism Spectrum Disorder)と呼ばれる「自閉症」の子どもたち。その子たちが、なぜか方言を話さない。そんな不思議な発見から始まった研究が、実はASDの中核症状に関わることが明らかになっていく。松本氏の「謎解き」のプロセスを追いながら、ASDの本質を探る。
ASDの子どもが方言を話さないのはなぜか。この問題について、次の3つの仮説があるということでした。
- (1)方言には「社会的機能」があるから
- (2)ASDの人は「共同注意と意図理解が苦手」だから
- (3)ASDの人は「音声の絶対音感者である」から
(1)については、前回、うかがいました。(2)に挙げられた、ASDの人は「共同注意と意図理解が苦手」とは、どういうことでしょうか。
松本敏治氏(以下、松本):「共同注意」というのは、複数の人が同じ対象に注目することです。例えば、お母さんが「ほら、犬がいるよ」と言って指差した方に注意を向けるというのが共同注意で、これができれば、「あれが犬というものだ」といった形で言語を習得していくことができます。もう一つの「意図理解」は、ざっくり言えば、相手が何を考えているかを察することです。
これらのことが苦手であれば、家族を含めた周囲の人たちとのコミュニケーションを通して言語を習得することは難しいでしょう。そのために、ASDの人たちは、地域の共通言語である方言を習得できないというのが、(2)の仮説です。
では、(3)の「音声の絶対音感者」とは、どういうことでしょうか?

1957年生まれ。博士(教育学)。公認心理師、特別支援教育士スーパーバイザー、臨床発達心理士。1987年、北海道大学大学院教育学研究科博士後期課程単位取得退学。室蘭工業大学助教授などを経て、2000年弘前大学助教授、2003年同教授。同大学教育学部附属の特別支援学校長、特別支援教育センター長を歴任。現在、教育心理支援教室・研究所「ガジュマルつがる」代表。
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