ボキャブラリーを調査するも、また敗北

松本:そこで、「方言語彙の使用不使用」について調べることにしました。例えば、津軽弁には独特のボキャブラリーがかなりあります。共通語の「くすぐったい」は「もちょこちぇ」、「ひっかく」は「かっちゃぐ」といった具合です。このような、方言特有の語彙を使っているかどうかを見れば、方言自体の使用不使用が分かると考えたのです。

「方言に聞こえない」のか、「方言を使っていない」のかを、語彙の調査で証明しようとした、ということですね。

松本:すると、共通語の語彙の使用については差がないのに、方言の語彙に関しては、自閉傾向のあるお子さんは「あまり使っていない」という結果が出たんですね。それで私が主張していた「アクセントやイントネーションの問題」では、説明できなくなってしまったんです。

奥様の勝利ですね。

松本:とはいえ、これは北東北だけの調査です。つまり、「北東北の方言が聞き取りにくいからじゃないか」と。

 こういう意見が実際にあったんです。方言の中でも、津軽弁は特に難しいと思うんですよね。僕も最初は全く聞き取れなくて、移り住んでから20年以上たった今でも、おじいちゃん、おばあちゃんが話す津軽弁は、5割理解できるかどうかです。ですから「ASDのお子さんの中に、聴覚的処理が苦手な子がいるとしたら、その子にとって津軽弁の習得は難しいだろう」と考えたんです。

もし、聴覚処理が苦手な子がASDに高い割合でいるとしたら、難解な方言とされる津軽弁が聞き取れない、ということはあるかもしれない、と。

松本:それを証明するには、津軽弁以外の方言についても調べなければならない。全国で調べなければならない。舞鶴、京都、高知、北九州、大分、鹿児島……と調査をすることになりました。その結果、全国で同じような結果が出たことで、妻への完全敗北を認めた、というわけです。

全国調査を終えて、「ASDの人たちは方言を話さない」という結果が出たんですね。

松本:そうなると、今度は「なぜ?」となります。ここで壁にぶち当たりました。

結果は出た。でも、理由が分からないということですか。じゃあそこから、理由を探る研究が始まった、と。

松本:はい。いくつかの説が出てきて、一つずつ検証し、潰していくことになりました。

「なぜASDの子は方言を話さないのか」という疑問に対して、現時点でのお答えはどうなりますか?

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