朝5時、マンション最上階まで駆け上がってロング缶

沖田:自宅兼仕事場の賃貸マンションで、修繕工事が始まったんです。私はずっと過眠症で、1日に12時間寝ないと元気が出なかったんですね。なのに騒音で、ルーティンにしていた昼寝ができなくなってしまったんです。連載がめちゃめちゃたくさんあったのに。

 そうしたらある日、突然、夜もまったく眠れなくなったんです。

 何の予兆もありませんでした。「夜だ。そろそろ寝ようかな」と思ってベッドに入った瞬間に、目が勝手にばんって開いて、頭の奥からゴーッて音が聞こえてきたんですよ。頭の中の音がうるさくてまったく眠れなくなって。

うるさいのが頭の中の音では、消せないですよね。

沖田:朝になって、眠れていないけどベッドから出ると、自分が「頭と体がうまくつながっていない何か」になったみたいな感じなんです。(頭と体をつなぐ)首がどこかにいっちゃった。首から先の頭につながる回線が全部、落ちちゃった感じ。その代わり、体の中に『マジンガーZ』みたいなコックピットがあって、そこに小さな私がいて、なんとか体を操縦しようと焦りまくっているイメージです。

 その日は用事があって電車に乗って出かけたんですが、視野が狭まり、字も読めませんでした。駅に着いて快速電車に乗ろうとしても、字が読めないから、色で見分けました。「オレンジ色のあれが多分、中央線の快速」みたいな感じでなんとか目的地に着いて。

 休んだら治るかと思ったのですが、翌日になると、もっと字が読めなくなっていて、漫画を見ても何が描いてあるか分かりませんでした。何もできないのに寝ることもできない。そんな状態で2日たったとき、急に死にたくなったんです。連載があるし、アシスタントもいるし、原稿を描かなきゃいけないし。

でも、そんな状態ではとても描けませんよね。

沖田:それで、いっぱいいっぱいになってしまって。「これ以上、人に迷惑をかけるんだったら、死ぬ」と、朝5時にマンションの最上階の9階まで駆け上がって、ビールのロング缶を飲んで飛び降りようとしたんです。

 何がショックだったかといえば、字が書けなくなったことです。小学校から練習してきて、やっと漫画家になって、人並みのことができるようになったのに、もう全部パーになっちゃったって。

これだけ頑張ってきたのに、と……。

沖田:それなら人気絶頂のときに死んだほうがいいって。

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