サントリーホールディングス・新浪剛史社長の「45歳定年制」発言が物議をかもすなど、コロナ禍で働き方が見直されつつある今、目標が見えず将来に不安を持つビジネスパーソンが増えている。多くの人たちが働きがいを感じられないのは、「これまでのキャリアの常識や方法論が新たな時代にフィットしていないため」と人材育成コンサルタントの片岡裕司氏は分析する。ポストコロナ時代のキャリアの新たな常識とは。目標とする先輩も上司もいない20代、30代が目指すべきものとは。『「目標が持てない時代」のキャリアデザイン』(日本経済新聞出版)を刊行した片岡氏、共著者の北村祐三氏が解説する。

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「五輪代表決定」。栄功の瞬間に選手を襲った虚無感の正体

 2021年、コロナ禍でたくさんのイベントや行事が中止になりました。不本意な転職や休業を余儀なくされた人も多くいるでしょう。不確実性を増す現代は、たくさんの人の目標が奪われる「目標喪失時代」と言い換えることもできます。

 セミナーや研修でも「これから先、何を目指せばいいのか分からなくて……」という相談をよく受けます。特に20代、30代の若手ビジネスパーソンに顕著な傾向です。

 目標を喪失するというのは、それが奪われた場合に限りません。意外なことに、目標が達成されたときにも人は大きな喪失感を覚えるものです。ある有名アスリートから聞いた話を紹介しましょう。

 その選手は、オリンピック出場を目標として多くの苦難と挫折を乗り越え、ついにその切符を手にしました。普通に考えれば、人生最高の瞬間です。ところが、その途端、強い虚無感に襲われ、うつ状態となったそうです。オリンピック代表になるという目標がなくなったことが原因でした。

 目標がいかに果てしないエネルギーを持つか、目標がなくなることがどれほどの喪失感をもたらすかをうかがい知ることのできるエピソードです。オリンピックという目標がなければ、苦難と挫折を乗り越えることは難しく、一方でそれだけの強固な目標だったがゆえに、なくなったときの落ち込みの衝撃もすさまじい。目標が持つ魔力であり、目標喪失のワナです。

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