日本酒の醸造技術を伝承しようと、AI(人工知能)の開発が進んでいる。近年、輸出が大幅に伸びてきた一方、国内の酒蔵は戦後のピークから6割近く減ってしまった。機械が媒介となり、杜氏(とうじ)の技を若い蔵人につなげる試みが始まっている。

 「平安時代から続く蔵もあるのに、目の前で危機が迫っている」。大手醸造機械メーカー、フジワラテクノアート(岡山市)の藤原恵子社長はこう語る。コロナ禍で酒類を出す飲食店が制限を受け、各地の「銘酒」を担う中小の酒蔵も打撃を受けた。長引けば新たな蔵人が増えづらく、技術統括である杜氏(とうじ)の技を引き継ぐのに支障をきたしてしまう。

 同社が注目しているのは麹(こうじ)の生産プロセスである製麹(せいぎく)だ。醸造はよく「1に麹、2に酛(もと)、3に造り」といわれる。発酵のベースとなる酛や、それを増やして仕込んでいく造りの前に、まず麹が重要という意味だ。

 伝統的には木でしつらえた麹室の中で蔵人が夜も作業を繰り返し、2日間かけて仕上げる。筆者もこの厳かな雰囲気が好きだが、足元では人手不足で麹室の維持が難しいケースもある。同社は「VEX」という自動製麹装置を開発し、全国約20の蔵に納めてきた。そして今、人工知能(AI)によるアドバイス機能も搭載しようと研究している。

麹菌の成長を予測

 繊細な味わいを楽しむ吟醸酒では、麹も慎重に作らないといけない。コメに麹菌がどれだけ繁殖したかを「破精(はぜ)」と呼び、吟醸向けは絶妙なコントロールが求められる。コメの表面に菌糸が程よく伸びている「突き破精」という状態だ。

フジワラテクノアートは自動製麹装置も製造している。
フジワラテクノアートは自動製麹装置も製造している。

 突き破精を作るには、単に機械を導入すれば済むわけではない。どんな湿度や温度経過をたどって麹菌の働きを促していくか、熟練の経験や知識がモノをいう。狩山昌弘専務は「同じ装置を導入しても、いかに使うかで麹の出来具合は変わってくる」という。

コメに繁殖した麹菌の状態(破精まわり)は1粒ごとに異なる
コメに繁殖した麹菌の状態(破精まわり)は1粒ごとに異なる

 この装置を使いこなすには、①どんな麹米を目指すのか②酒米をいかなる状態で投入するか③機械をどう設定して麹菌を育てるか の3点を人間が考えないといけない。今回のAIでも、ゴールである①は人が設計する。助言するのは②と③についてだ。

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