2021年10月、和歌山市の紀の川にかかる水道橋の一部が崩落し、市北部の約6万世帯が断水するという憂き目にあった。
老朽化したインフラ設備による事故が全国各地で頻発している。インフラ更新は待ったなしの課題ではあるものの、優先順位を付けて対応するには老朽化の状況を調べる必要があり、相当な時間とお金がかかってしまう。一方でマンパワーや財源は限られており、自治体の悩みの種でもある。とりわけ、人手や財源不足に悩む地方自治体にとっては深刻だ。
いかに早く、そしてお金をかけずにインフラの老朽度合いを調べるか。この難題を解くべく、ある実証実験が行われている。解決のキーワード、それはゲームだ。
「マンホール聖戦 全国出陣祭り」と題し、2022年1月29日から展開中のゲームイベントがある。これは実証実験を兼ねた市民参加型のゲーム「鉄とコンクリートの守り人」を活用したイベントで、開催は今回で5回目。鉄とコンクリートの守り人は、マンホールの蓋をスマートフォンのカメラで撮影し、全地球測位システム(GPS)を活用して登録していくゲームで、「成績上位」の参加者には運営元から賞金も出る。

市民参画型インフラ情報プラットフォームの構築・提供・運営を行うスタートアップのWhole Earth Foundation(WEF)と、水道管業界の国内シェア3位でマンホールの蓋の製造も手掛ける日本鋳鉄管がこのゲームイベントを運営している。
なぜマンホールの写真を集める必要があるのか。このゲームが開発された背景には、老朽化しつつある社会インフラの現状を確認するという狙いがある。
マンホール1500万基のうち、300万基が30年以上更新なし
下水道用マンホール蓋の主要メーカーでつくる業界団体の日本グラウンドマンホール工業会(東京・千代田)が2018年に公表した推計によると、日本には下水道のマンホールは約1500万基あり、そのうち2割に相当するおよそ300万基は30年以上交換されていないという。
国が定める車道用マンホール蓋の標準耐用年数は15年。その年数をはるかに上回る期間、放置されているマンホールが相当数あるのだ。だが「実際に更新されるマンホールの鉄蓋は全国で年間10万基程度にすぎず、老朽化するマンホールは増えるばかり」(日本鋳鉄管の日下修一社長)だ。
下水道の管理責任は国や県ではなく、市区町村にある。ただ、インフラ投資に使える財源は限られており、多くの自治体では手が回っていないのが現状だ。放置すればスリップや落下という事故につながる危険性がある。
いかに効率的に現状を把握し、インフラ更新の投資につなげるか。その実証実験も兼ねて行われているのが、ゲームを使った冒頭のイベント「マンホール聖戦」だ。
自治体がそれぞれ業者に委託して目視でマンホールの状況を確認するには、時間もお金もかかる。そこで、WEFと日本鋳鉄管は市民参加型のゲーム開発に乗り出した。実現すれば、多くの人を「巻き込む」ことで効率的にマンホール蓋の写真を収集できるようになる。
集まった画像を自動的に診断して劣化度合いを測り、データ化する。自治体はそのデータを基に、どこのマンホール蓋から置き換えればいいかの優先順位を付けることができるのだ。
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