ダニエル・ヘラー・中央大学国際経営学部特任教授(以下、ヘラー氏):資本主義の特徴の1つは、お金の流れを追うということです。ですから私たち消費者側はもっと賢く買い物をして、環境を破壊しないモノを買えば、大きな力を発揮できるでしょうね。私たちは(従来型の)消費を抑制し、適切な場所に向ければいい。そこに消費者のお金があるなら、企業もついてくることでしょう。私たちは無力ではありません。もっとよくなる方向に企業を導けばよいのです。

磯貝:格差についての質問です。米国では、上位1%のいわゆる超富裕層が多くの金融資産を保有し、貧富の差が拡大しています。一方で、一獲千金も夢ではない「アメリカンドリーム」が世界中の優秀な頭脳を引きつけ、イノベーションを促している部分もあると思います。これについてはいかがでしょうか?

ミンツバーグ氏:確かに、才能のある人は、収入を最大化したいと思うかもしれません。私は仕事をして最大の収入を得ようとする人を否定する気はありません。企業が利益を得ることを否定する気もありません。否定しているのは、独占的な立場に基づく法外な利益です。

 政府はある程度、企業の独占を管理する権限があります。そうした企業に才能ある科学者たちが引き寄せられ、企業を支えているわけです。

 例えばポリオワクチンを開発したジョナス・ソーク氏は、非営利の研究所で働いていました。彼は「太陽に特許はない」と言って、ワクチンの特許を取得することを拒否したのです。その結果、安価なワクチンが世界中に行き渡り、ポリオ(小児まひ)は世界の広い範囲で根絶されました。

300倍もうけたいか、30倍もうけたいか

 大金を稼げるのに特許を取らないのは愚かだと言う人もいるかもしれない。しかし生きるのにもう十分なお金があり、(特許を取らないことで)隣人の尊敬が得られたら、それはお金より大切なことなのではないでしょうか。

ヘラー氏:キーワードは「十分な」お金ですね。「十分」とはどれくらいか。米誌の企業ランキング「フォーチュン500」のリストにランキングされた企業の最高経営責任者(CEO)の平均収入は、従業員の約300倍です。60年代は25~30倍ほどでしたが、それでもかなりの高所得者です。300倍の収入を得る人はうれしいでしょうが、30倍程度だとしても、それはそれでうれしいのではないかと想像します。

中央大学国際経営学部のダニエル・ヘラー特任教授
中央大学国際経営学部のダニエル・ヘラー特任教授

ミンツバーグ氏:従業員の何百倍もの報酬を受け入れる人は、「私は従業員よりも何百倍も重要だ」と言っているようなものです。そんな人はリーダーではありません。このメッセージを伝えれば目を覚ましてくれるでしょうか。自分の力を誇示することが重要なのではないと気づいてくれるかもしれない。大事なのは、(従業員よりも)何倍稼いでいるかではなく、コミュニティーにどう奉仕できているかなのですから。

 CEOの法外な報酬は、(米国)社会にまん延する病の一部です。これも制御不能になった個人主義の顛末(てんまつ)でしょうね。

磯貝:今の質問に関連した質問です。経営者の意識や行動変容、企業セクターにおいて、資本主義を前提としたビジネスの考え方が強く残っています。企業経営者に対してどのようなことを提言すれば彼らの行動や意識は変わるのでしょうか?

ミンツバーグ氏:カギとなるのは資本主義ではなく、起業家精神です。そして、起業家精神は従来の資本主義がなくてもできます。つまり、起業しても株式を公開しないという選択肢を選んでもいいということです。

 デンマークでは、ほとんどの主要企業が信託によって管理されています。信託の一部は家族信託です。つまり、資本主義に依存せず、協同組合のように内部留保によって企業を大きくすることもできるということです。

 私たちは資本主義に依存しなくてもよいし、短期資金に依存する必要もないのです。朝に株を買って、夕方には売るデイトレーダーが会社を所有しているなどというのは冗談のような話です。勤続30年の従業員には会社の所有権がなく、実際には会社に興味がないデイトレーダーが所有権を持っています。

 ほかの種類の投資でも経済は回せます。突拍子もない話というわけではありません。CEOが従業員の300倍報酬をもらっていることのほうがよっぽどばかげていますよ。私たちが当たり前と思っていることの多くはとんでもないことなのです。

 先ほども申し上げたように、ドイツ経済は非常に素晴らしい。ドイツには「共同決定法」があります。大企業の監査役会の議席の半分は従業員によって選出された代表者のために確保されているのです。もちろんこの法律がドイツ経済を損なったことはありません。

ヘラー氏:ドイツでは取締役会における男女格差をなくす法律も制定されました。ジェンダー平等の不均一も日本で変える必要があるものだと思います。人口減少だけを見ても、企業にもっと女性の力が必要なことは明白です。素晴らしい女性リーダーの力が無駄になっています。

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