<span class="fontBold">「日経ビジネスLIVE」とは:</span><br />「読むだけではなく、体感する日経ビジネス」をコンセプトに、記事だけではなくオンライン/オフラインのイベントなどが連動するプロジェクト
「日経ビジネスLIVE」とは:
「読むだけではなく、体感する日経ビジネス」をコンセプトに、記事だけではなくオンライン/オフラインのイベントなどが連動するプロジェクト

 日経ビジネスLIVEでは、2021年10月5~7日の3日間にわたり「The Future of Management 2030:資本主義の再構築とイノベーション再興」と題したWebセミナー(ウェビナー)を開催。世界中の経済・経営学の英知を結集して、2030年の企業とマネジメントのあるべき姿について意見を交わしました。

 10月6日には、「マッチング理論」を市場や制度の仕組みづくりに応用する「マーケットデザイン」で2012年のノーベル経済学賞を受賞したアルビン・ロス米スタンフォード大学経済学部教授と、ロス教授の直弟子でもある小島武仁東京大学大学院経済学研究科教授による特別対談をお送りしました。モデレーターは日経BP経営メディアユニット長の伊藤暢人が務めました。マッチング理論の実装で、社会の格差や不公平の問題は解決できるでしょうか。どんな領域に適用すると良い効果が得られるでしょうか。

日経BP経営メディアユニット長・伊藤暢人(以下、伊藤):続いて、小島教授に日本でのマーケットデザインの実装例などについてお話をお聞きしたいと思います。

小島武仁東京大学大学院経済学研究科教授(以下、小島氏):私は昨年(2020年)までスタンフォード大学でロス先生の同僚として働いていました。東大に移ったとき、日本ではマーケットデザインの社会実装が進んでいないと気付き、「東京大学マーケットデザインセンター」をつくりました。今はマーケットデザインの基礎研究をしながら社会実装を進めています。

 プロジェクトの1つが待機児童問題への応用です。ロス先生がお話しした通り、保育園の割り当てに「Immediate Acceptance(即時受け入れ)」方式のマッチングを活用すると、「希望順位にうそをつくインセンティブが働く」「自分よりも優先順位が低い人が入る不公平が起きる」など問題があるため、米ボストンの学校選択制度にも使われた「Deferred Acceptance (受け入れ保留)」方式の導入を提案しています。

小島武仁・東京大学大学院経済学研究科教授
小島武仁・東京大学大学院経済学研究科教授

 ただ、日本にはそれだけでは解決しない問題があります。「年齢のミスマッチ」です。保育園には0歳児から5歳児まで6つの年齢グループがあり、年齢別の定員を設定してからマッチングをします。そのため、例えば1歳児や2歳児の定員は埋まっても、3歳児、4歳児、5歳児の枠は空いているということが起こり得ます。

 これはアルゴリズムを使ったマーケットデザインで解決できます。保育士数や園のスペースなど資源の制約を踏まえながら、実際の応募状況に応じて柔軟に年齢別の定員を調整するのです。3~4年前の山形市のデータを使った試算では新たなアルゴリズムを使うと待機児童を63%削減できる見込みとなりました。今、幾つかの自治体などと協働し、このマッチング理論を保育園に実装しようと動いています。

 研修医のマッチングでも実装プロジェクトが進んでいます。日本では2003年から受け入れ保留方式が採用されてきましたが、東京や大阪などの大都市に希望が集中する問題が生じました。そこでアルゴリズムを改変し、都道府県別に配属できる研修医の上限を設定しています。

 ただ、大都市圏の病院に対し、定員を無理やり下げてもらう現在のやり方では、良い研修プログラムを持つ病院に限られた人数の研修医しか行けなくなってしまうので、私は都道府県別の上限を守りつつ定員をアルゴリズムで自動調整する新方式を提案しています。シミュレーションによると、この新方式を採用することで、病院とマッチングできない就職浪人を減らせることがわかりました。

マーケットデザインは「いいとこ取り」

 3つ目の実装プロジェクトは企業内人事です。医療機器メーカーのシスメックスは2021年に新卒配属で受け入れ保留方式を導入しました。研究所に定員3人のチームが3つあり、研究所全体の定員は5人という場合があります。研修医のマッチングと同じアルゴリズムを使うことで、第1希望にかなう比率を従来の60%から80%ほどに上げることが可能になりました。今後、配属に関して異なる悩みを抱えている他の企業などとも相談しながら、その企業に適したアルゴリズムの導入を進めていこうとしています。

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