岩盤規制を打破する国家戦略特区という手段が明確な一方で、本来の目的である「どのような街づくりを目指すか」が自治体任せになっているようにも見える国の「スーパーシティ」構想(前回の記事:スーパーシティ提唱の竹中平蔵氏が語る真意 「言葉遊びじゃない」)。区域指定を目指して応募した自治体を突き動かすものは何なのか。前橋市の事例を見てみよう。

群馬県の県庁所在地である前橋市も、スーパーシティの公募に応じた自治体の一つだ(写真:PIXTA)
群馬県の県庁所在地である前橋市も、スーパーシティの公募に応じた自治体の一つだ(写真:PIXTA)

 「午前11時から南部保健センターで乳幼児健診」。午前8時、前橋市に暮らす女性のスマホにプッシュ通知が届いた。

 今日は9カ月健診か。そろそろ職場復帰に向けた準備も始めないといけないな。ちょうど朝食が済んだところだ。洗濯物を干すのは夫に任せ、スマホの「バーチャル市役所」アプリを開いて保健福祉の窓口を呼び出した。保育所の利用申請手続きは、わずか15分。朝食の洗い物をしながら口頭で済ませられた。

 午前10時20分、乗り合いタクシーが自宅に到着した。乗り合わせたのは6カ月健診の時も同乗した車椅子の男子大学生だ。市内の大学に通いながら、オンラインで米国の大学の経営学ゼミに参加しているらしい。

 乗り合いタクシーは、顔認証を基にして後日、利用料金が口座から引き落とされる仕組み。商店街やショッピングモールでも「顔払い」ができるところが増え、財布を持って歩くことはめっきり減った。

 「日曜日までの電子住民投票、もう済ませました?」。男子大学生がこう聞いてきた。そうだ、個人情報と医療・介護サービスとの連携をさらに進める案の賛否を問う投票が始まっていたんだった。すっかり便利にはなったけど、改めて考えないといけないな――。


 国の「スーパーシティ」構想に応募した自治体の一つ、前橋市が描くのはこんな暮らしだ。「未来都市」と聞いて空飛ぶクルマが行き交うSFの世界を想像していたら拍子抜けするかもしれない。しかし、33万人余りの市民の生活が着実に便利になる未来がそこにある。

 行政手続きのオンライン化、効率的なオンデマンド交通、オンライン学習と単位認定、顔認証決済に電子投票……。市民目線に立って「市役所の窓口に行く時間が取れない」「公共交通が使いづらい」といった日常の困りごとを解消し、住民の時間と心のゆとりを生む。

 全ての土台となるのが「まえばしID」。マイナンバーカードにスマホと顔認証を組み合わせ、ネット経由でも本人確認ができるようにする仕組みだ。医療や教育などの行政データと、預貯金口座や購買履歴といった民間データをこのIDでつなぎ、多様なサービスを生み出そうとしている。

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