コロナ禍で経済が広く苦境にあえぐなか、クラウドファンディングを活用する動きが広がっている。単に「売る」「買う」という商行為ではなく、買い手が「応援」という意思表示を持って積極的に消費に関わり始めた動きは新しいトレンドといえる。

 本連載では、「Makuake」の代表であり、『Makuake式「売れる」の新法則』を発売したマクアケ取締役の坊垣佳奈氏が、様々な人をゲストに迎えて「消費」について考える。

 第1回のゲストは映画監督の紀里谷和明氏。紀里谷氏は、現在制作中の長編映画『新世界』のパイロット版の資金集めでマクアケを利用している。創作者の立場から消費をどう見ているか、話を聞いた。

<span class="fontBold">紀里谷 和明(きりや・かずあき)</span><br>1968年、熊本県生まれ。2004年に自らタツノコプロの代表に直談判して実写化の権利を獲得し撮影したアニメ『新造人間キャシャーン』の実写版映画『CASSHERN』を発表した後、09年には主演に江口洋介を迎えた『GOEMON』を公開。15年にはクライブ・オーエン、モーガン・フリーマン出演の映画『ラスト・ナイツ』で監督としてハリウッドデビュー。15歳の時に単身渡米し、1994年に写真家としてニューヨークを拠点に活動を開始。米『VOGUE』誌などのファッション誌をメインに活動し、日本では、SMAP「らいおんハート」、Mr.Children「NOT FUND」などのCDジャケットを撮影。その後THE BACK HORNのデビュー曲を皮切りに、宇多田ヒカルの「traveling」、「SAKURAドロップス」、「光」などのミュージックビデオを手掛けた後に映画監督へ。現在は、天童荒太の小説「悼む人」のハリウッドでの実写版映画の撮影を控えている。(写真=的野 弘路)
紀里谷 和明(きりや・かずあき)
1968年、熊本県生まれ。2004年に自らタツノコプロの代表に直談判して実写化の権利を獲得し撮影したアニメ『新造人間キャシャーン』の実写版映画『CASSHERN』を発表した後、09年には主演に江口洋介を迎えた『GOEMON』を公開。15年にはクライブ・オーエン、モーガン・フリーマン出演の映画『ラスト・ナイツ』で監督としてハリウッドデビュー。15歳の時に単身渡米し、1994年に写真家としてニューヨークを拠点に活動を開始。米『VOGUE』誌などのファッション誌をメインに活動し、日本では、SMAP「らいおんハート」、Mr.Children「NOT FUND」などのCDジャケットを撮影。その後THE BACK HORNのデビュー曲を皮切りに、宇多田ヒカルの「traveling」、「SAKURAドロップス」、「光」などのミュージックビデオを手掛けた後に映画監督へ。現在は、天童荒太の小説「悼む人」のハリウッドでの実写版映画の撮影を控えている。(写真=的野 弘路)

必要な分だけつくって、本当の価値を伝える

紀里谷さんは常々、消費をどう見ているのでしょうか。

紀里谷和明氏(以下、紀里谷):僕はそもそも世の中の物事の99%は必要ないと思っているんです。

 世の中に流れている情報も、あふれているモノも、99%は僕とは関係ない。僕は今自然の中で暮らしているんですが、「うちのバナナ育つかな」「夜は雨が降るかな」といったことが自分にとって重要。となると、大概のものは関係ないですよね。

 みなさんも、自分と関係ない物事で右往左往しているように見える。これを「得た」「失った」とかで、怒ったり悲しんだり笑ったりしていますよね。ファッションなんかまさにそう。そんなことより、自分が愛している人の健康や幸せのほうが大事じゃん、と思っちゃう。

アパレル業界をはじめ、廃棄に対する課題感が強まっていますよね。今までの流通構造として、ヒットを予測して大量生産して棚を取って打っていくというやり方をしていたからでしょう。でも、正しいつくり方でいいものをつくっている人たちがいて、それを選んでくれる消費者が少しずつ現れてきています。

紀里谷:理想は、限りなく在庫がない世界です。もっと言うと、値段が高くないとダメだと僕は思うんです。例えば今はサングラスが980円で買えたりする。10本買ったら9800円です。だったら9800円のものを1本買ったほうが、経済波及効果は同じだけど資源は10分の1で済むわけです。

 「安けりゃいい」というところから絶対に脱していかないといけない。それを可能にできるかどうかは、起業家や消費に対する感度が高い人たち次第じゃないでしょうか。作り手が、もし何かを3000円で売ろうとしていたら、「いや、3万円で売ってください」と言えるようなビジネスじゃないといけないと思います。

何がしたいのか、何をつくりたいのか

 僕ね、マーケティングって言葉がこの世で一番嫌いなの(笑)。マーケティングって必要ないものを必要だと思わせて買わせることですよね。だって、お米とか水とか、本当に必要なものはマーケティングが必要ありません。

 マーケットリサーチが行われて、その商品が売れるかどうかの会議がありますよね。「これは売れないとマーケットが言っているからやめましょう」という結論になることもよくあります。その真逆をやったのが米アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏です。「だってこれやりたいんだもん」ってつくったものが売れた。その会社が企業価値世界一になっている。

 映画も同じで、売れそうなものにお金を出す。よく分かるし、このやり方を僕は否定しません。例えば、ヒットしている漫画があれば、ヒットしている分、映画を見に来る人がいる可能性があるということ。だから当然、そっちにお金を出しますよね。でも、それなら僕はもう投資家になったほうがいいのではないかと思ってしまうのです。

(写真=的野 弘路)
(写真=的野 弘路)

投資家になったほうがいいとはどういうことでしょうか?

紀里谷:お金のためって言うなら、いっそ投資家になったほうがもうかるってことです。でもそうじゃなくて、映画や音楽をつくったり、絵を描いたりしたい。何のためにやっているかというと、つくりたいものがあるからです。それをやるために今まで一生懸命頑張ってきたし、子どものころに「あんな映像がつくりたい、絵が描きたい」と思ったわけです。

 自分がつくりたいと思うものをプレゼンしても「紀里谷さんそれは過激すぎます」「それキツイですよ」と言われる。自分のお金を出してやったこともあったけど、それは再現性がない。誰もができるような仕組みがないか考えて、『新世界』のプロジェクトを立ち上げました。

 僕はマーケティングがない世界を想像して物事をつくっていかなきゃいけないと考えているんです。マーケティングがなくても、誰にでも「すごい」と分かってもらえるもの。「これがないと生きていけない」と感じてもらえるもの。それなら、マーケティングがなくてもいいわけです。

マーケティングやプロモーションでお金をかけて、良いか悪いか分からないものを大きく見せていることもあります。

紀里谷:ファッションがいい例だけど、ブランドがマーケティングの頂点みたいなものでしょう。マーケティングの自動運転がブランドで、ブランドがあれば何もしなくてよくなる。つまりそれは、そのもの自体に力がないってことです。

 それに、マーケティングでアルゴリズムの話ばかりをするのは気持ち悪いと感じます。どうやったら売れる、どうやったらフォロワー数が上がる……そんな話ばっかりで、「何がしたい」「何をつくりたい」という話がない。いやらしいマーケティング的な言い方をすると、「HOW」が多くて「WHAT」がない。

 南極で氷を売る。それを可能にするのがマーケティングです。不思議ですよね。

「直接つながる」ことのメリット

 最近気付いたことがあるんですよ。僕は芸術の世界にいるから、今までは「ビジネスは嫌い、スーツ着てる人やだ」って思ってたんです(笑)。でも、色々なビジネスの人達と話をしてみると、起業家やトップにいる人って、クリエーティブ側と同じようなことを考えていることに気付いたんです。「世の中を変えたい」とか「今までとは違うやり方にしたい」とか、実はとってもピュアな人達が多い。

 逆にクリエーティブ側には「金はクライアントからもらうもの」「プラットフォームに言われるままつくっていけばいい」といった怠慢さがあるのも事実なんです。だから、今までの常識をひっくり返して、ピュアな想いを持っている者同士が業種の垣根を超えて直接つながれば、新しいものを生み出して、利益も生み出せるんじゃないか?と考えています。

(写真=的野 弘路)
(写真=的野 弘路)

直接つながることが大事なんですね。

紀里谷:そう。クリエーティブ側からすると「会社の社長ってふんぞり返って偉そうにしてるんだろ」と思ってるかもしれないし、経営者からしたら「アーティストって言うこと聞かない集団なんでしょ」と思ってるかもしれない。

作り手と消費者の関係も同様です。消費者が「本当はこういうものを欲していた」というのが分かると、明確にニーズがあるものを必要な分だけつくっていくことができる。これまで、作り手側は「いいものを作っても消費者に理解してもらえない」と思っていたし、消費者は「作り手は距離が遠いもの、対話はできない」と思っていました。

紀里谷:マクアケには、もう一歩進んでほしいんですよね。今回『新世界』のプロジェクトで利用させてもらって感じたのは、購入してくれた人に対するリターンがヘビーすぎる。リターンを考えたり、発送の作業をしたり……。そこを何とかできたらと思います。それから、億単位のお金はまだまだ集まりづらいので、そこをどうするかって話だよね。

「覚悟」が動かす人の心

「本当に自分がやりたいことをやる」というのは難しい半面、これからの消費を考える上でとても重要なことのように思います。

紀里谷:そうですね。命を落とそうが破産しようが、「それでもやりたい」と思えるような覚悟がないと人は応援してくれないでしょう。何より、それが成功しても失敗しても、自分は納得するはず。自分との対話を経て、「俺はこれがやりたいんだ」って思えることがあるだけで、とてもハッピーです。成功や失敗はただの副産物だと僕は思う。

 何事も一生懸命やっていれば人に届く。そうでなくても、あなた自身は満足してるんじゃないの?ってことです。

 成功しようが失敗しようが、それをやり始める人たちをたたえる文化があれば素晴らしいことだと思う。そんな社会になれば、イノベーションが起きやすくなるし、日本は再生するんじゃないですかね。

(構成:梶塚 美帆)

オンラインセミナー「日経ビジネスLIVE」のご案内
電子版有料読者はすべて無料で視聴可能

若手時代にやっておくべき10の挑戦
アートとサイエンス、両方を理解する人になる

<span class="fontBold">「日経ビジネスLIVE」とは:</span>「読むだけではなく、体感する日経ビジネス」をコンセプトに、記事だけではなくオンライン/オフラインのイベントなどが連動するプロジェクト でお願いします。
「日経ビジネスLIVE」とは:「読むだけではなく、体感する日経ビジネス」をコンセプトに、記事だけではなくオンライン/オフラインのイベントなどが連動するプロジェクト でお願いします。

■開催概要
日時:2021年9月14日(火) 20:00~21:00
講師:一休 代表取締役社長 榊淳氏
   オルビス 代表取締役社長 小林琢磨氏

詳細・申し込みはこちらをご覧ください


電気自動車で日本は勝てるのか~欧州の野望を読み解く

■開催概要
日時:2021年9月15日(水)16:00~17:00
講師:伊藤忠総研 深尾三四郎・上席主任研究員
   ZFジャパン 多田直純社長

詳細・申し込みはこちらをご覧ください


スモールビジネスから始まる「ネオ日本型経営」

■開催概要
日時:2021年9月28日(火)~29日(水)、キーノートを含む5セッション
講師:LIXIL瀬戸欣哉社長兼CEOほか著名経営者
プラチナパートナー:アメリカン・エキスプレス・インターナショナル,Inc.

詳細・申し込みはこちらをご覧ください

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

この記事はシリーズ「「新しい消費」を探る」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。