出口戦略の3点セットとは
デルタ型の登場を踏まえ、多くの国々の出口戦略は、以下の3点セットとなっている。
(1)ワクチン接種のできる限りの促進
接種未完了者へのキャンペーン実施、教職員や就業者への接種の実質的義務づけなど。
(2)一定数の感染者が出ることを想定した医療体制の整備
一定数の国民がワクチン接種しない・接種できないことを想定した病床などの整備。
(3)ある程度の行動規制
公共の場でのマスク着用や物理的距離の確保、屋内施設の入場人数規制など。
これまで厳格なロックダウンなどを実施してきたドイツやオーストラリアなども、8月後半以降、続々とこの3点セットの出口戦略に移行している。オーストラリアのある州首相は「オーストラリアはウイルスと共存しなければならない(Australia must live with virus)」とまで明言した。
実は世界の先頭にいた日本
さて、この3点セットの出口戦略を見た際に、何か気づかないだろうか。そう、これは日本政府が掲げる「コロナ対策の3つの柱(医療体制確保、感染防止対策、ワクチン接種)」そのものなのだ。もともと、日本では欧米のような厳格なロックダウンなどが制度上難しいこともあり、この3つの対策以外はとれなかったとも言える。そのことは、「日本は徹底した対策をとっていない、欧米のように法律を変えてでももっと厳しい対策をとるべきだ」という批判につながった。
特に、ワクチン接種は図表1で述べたように、接種先行国と時間差がついている。しかし、日本は今、国・自治体を挙げて、懸命に接種を進めており、接種が本格化した後の接種スピードで比較すると、米国をも上回るスピードで接種を進めている(図表3)。

そして、厳格なロックダウンなどを行ってきた欧米諸国も、これまでのような厳しい規制は持続可能ではないという判断から、出口戦略が日本と同様の3点セットに収れんしてきたと言える。
コロナ対策を試行錯誤しながらワクチン接種を懸命に進めてきた間に、気づけば出口戦略では先頭を走っていた。それが日本の実情ではないか。
その上でまだまだ不十分なのは、「ワクチン接種率のさらなる向上」と「コロナの長いトンネルの出口を出た後の日本の絵姿の議論」である。後者については、今まで以上に厳しい環境変化が日本を襲う。次回は、こうしたコロナ後の変化を紹介しよう。

新型コロナの「長い長いトンネル」の向こうにはどんな世界が待っているのだろうか?
ワクチン接種の進行により、22年春には社会経済の正常化が見えてきた。
しかし、「コロナ後」の日本社会は、「コロナ前」とは大きく異なる。
それは、
1 従来以上の人手不足の深刻化、
2 コロナでとどめを刺された低採算企業の淘汰・退出と業界再編、
3 必然的な社会・企業・行政のデジタル化とそれに適応できない中間管理職層の消滅、等である。
この大きな変化への対応の可否が、日本が「新しい高生産性・躍動感ある社会」となるか、「衰退が加速し、世界から見捨てられ、忘れられる社会」となるかの大きな境目となる。
政府に数々の提言をしてきたキーパーソンが、コロナ制圧への道筋とアフターコロナの課題を指し示す。
梅屋真一郎(著) 日本経済新聞出版
この記事はシリーズ「そろそろ、コロナの出口論議を始めませんか」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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