パソナグループは2024年5月までに、社内外のIT未経験者をDX(デジタルトランスフォーメーション)人材に育成する目標を掲げる。だが、目指すゴールはデジタル人材を育てるだけではないという。同社のDX事業を統括する河野一常務執行役員は「課題を見極める力こそ社会で養っていくべきスキルだ」と指摘する。企業が取り組むべきリスキリング(学び直し)のあり方について聞いた。

<span class="fontBold">河野一(こうの・はじめ)</span><br />2007年、パソナ入社。業務基幹システムの構築など主要プロジェクトに携わる。16年9月よりパソナグループグループIT統括部長、18年9月よりパソナグループ常務執行役員。淡路島の移転プロジェクトをはじめ全社のDXを統括する。(写真=的野弘路)
河野一(こうの・はじめ)
2007年、パソナ入社。業務基幹システムの構築など主要プロジェクトに携わる。16年9月よりパソナグループグループIT統括部長、18年9月よりパソナグループ常務執行役員。淡路島の移転プロジェクトをはじめ全社のDXを統括する。(写真=的野弘路)

パソナグループでは24年5月までに3000人のDX人材を育成する目標を掲げています。こうした人材育成に乗り出した理由について教えてください。

河野一常務執行役員(以下、河野氏):世の中全体のデジタルの波がここ2~3年で大きく進んでいるからです。特に新型コロナウイルスによって、あらゆる事業にデジタルの要素や知識スキルが必要になってきたことが大きく影響しています。

 パソナグループはデジタル化の流れを察知し、人材を育成し、場所と時間にとらわれずに勤務できる働き方を推進してきました。だが、やり切れていなかった。人材ビジネスにありがちなレガシーで保守的な提案のままだったんです。

 例えば、ある程度の経験やスキルを持ち合わせた人材を「この部門に1~2人、配置しよう」などとアレンジするのが主な仕事でした。ですが、デジタル化の流れの中で、非効率な作業を洗い出すといった、顧客の課題をより深掘りする必要が出てきています。例えば、「非効率的な紙の作業をなくし、紙の業務に関わっていた人には違う仕事をしてもらおう」といったことを提案するといった形です。

 我々が取り残されないようにするためには、スペシャリストやエキスパートだけではダメ。全社員がスキル、ノウハウを獲得しなければなりません。

24年5月までに3000人規模のIT人材をどのように教育していくのでしょうか。

河野氏:パソナデジタルアカデミーという大枠のプログラムの中で進めていきます。社員向けのコースであれば、若手社員、幹部候補生、専門家に近いエキスパート向けのコースに分けています。

 失敗からまず話すと、eラーニングのアカウントを作って各自勉強してくださいという研修は、あまりうまくいかなかったんです。そのため、何回かは実際の場所に集まって、顔を合わせてディスカッションしたり、情報交換をしたりといった場を作っています。

 若手社員向けのコースでは共通の目標として、ITパスポートなどの資格を全員取ろうと呼びかけています。試験勉強も相互に助け合いながらできる、そんなコミュニティーづくりをしながら、研修の離脱者を防ぐ仕組みを取っています。

研修を経て、どういった人材になってほしいと考えていますか。

河野氏:顧客のバリューを高めるためにはどんな手伝いをしたらいいのか考えられるようになることが一番重要です。

 課題を顕在化させ、顧客と共有するまでの方法論は、やはり学ばなければ分からない。

 課題というのは非常にふわっとしたもので、個人のアイデアとなればより概念的なものになります。それらを関係する社内外の人と目線を合わせて共有するには、会議のファシリテーター(進行役)を務めたり、課題をまとめ上げたりするなど、スキルの部分がどうしても必要になります。研修を通じて、様々な武器を身に付けてもらうという狙いがあります。

デジタルスキルだけというより、思考や課題設定といったことも養うということでしょうか。

河野氏:まさにそこです。結局、デジタルは方法論でしかありません。課題や物事の本質は何かというのを深掘りできることがポイントだと思っています。スキルを使えば、それぞれの頭の中にあるモヤモヤしたものを形に変えられ、課題意識を互いに共有できるようになれる。そして、提案の精度と質を高められます。

 研修を始めたことで、現場からは「プロトタイプの進め方などが体系的に分かった」「顧客に対して、より説得力のあるものを提案できた」との声が聞こえるようになってきました。

 育成プログラムを始めたことで、他業界からの方から悩みを打ち明けられることも多くあります。

 大半は、デジタルやテクノロジーというテーマが文系出身の社員から見ると大きなハードルとして捉えられてしまうというものです。「プログラミングを学ぶ必要があるんですか」「システムのアーキテクチャーをデザインしなければならないんですか」といったイメージを持ってしまう。

 私はいつも「その手前にやることがいっぱいありますよ」という話をしています。潜在的なニーズや課題をいかに顕在化させるか。このプロセスが大切ということを伝えています。

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