「恥ずかしい思いもたくさんした。バカな質問もたくさんした。研修を受けることで徐々にデジタルの知識を理解できるようになった」
こう話すのは、SOMPOひまわり生命保険法人統括部に所属する臼井康仁さんだ。法人向け保険営業の企画などに携わり、フィンテック企業の経営者などと商談の場で会うこともあった。だが、経営者と話がかみ合わずに困ることがあったという。DX(デジタルトランスフォーメーション)の基礎を学べる研修を受けたことで、「アジャイル開発」のあり方や、AI(人工知能)がどのように精度を高めていけるのかといったプロセスが分かるようになったという。

SOMPOホールディングスは2021年度から23年度までの中期経営計画で、国内損害保険事業や海外保険など主力の4つの事業に加えて、「デジタル事業」を第5の柱とする目標を掲げた。特に力を入れるのが、「リアルデータプラットフォーム(RDP)」と呼ばれる、実際の現場データを使った新たなプラットフォームの構築だ。様々な社会課題を解決する最新のソフトウエアを自治体や企業に提供する。具体的には、グループ内外のデータを使って災害の被害予測シミュレーションなどを想定する。
こうした目標を掲げるSOMPOホールディングスにとって、データプラットフォームのノウハウを現場に落とし込み、サービスを作ることは欠かせない。そのためにも、現場の困りごとやニーズなどに詳しい事業部門に所属する社員の理解は強力な武器ともなる。
その足掛かりとして始めたのが、国内グループ全社員にあたる約6万人が受講するDXの基礎研修をはじめとした「デジタル人材育成」の構想だ。
デジタルに弱い「負債」人材を「資産」に転換
研修に関わる同社デジタル戦略部の西野大介氏は「デジタルに弱いままではせっかくの人材が『負債』となる。『資産』として変えていく取り組みが求められている」と話す。

デジタルを知らなければ負債──。強烈な言葉ではあるが、あらゆる産業の構造がデジタル技術で変わる中、波に乗り遅れてしまえば事業の成長はないという強烈な危機感が、SOMPOホールディングスにはある。現に、利益の6割を占める国内損害保険事業も自動運転やシェアリングサービスなどのテクノロジーが進展すれば、事業が縮小するという予測も出ているからだ。
若手社員はもちろん、冒頭の臼井さんのような50代も対象となり、「現代の読み・書き・そろばん」とも呼ばれる、AI(人工知能)やビッグデータ、アジャイル開発、デザイン思考といった新たなスキルを学ぶ。「デジタルから逃げ切れる」と思う世代も対象となるというわけだ。
経済同友会代表幹事でSOMPOホールディングスのグループCEO(最高経営責任者)を務める桜田謙悟社長は「テクノロジーへの感性や感度が高いことは年代問わず必須になる」とし、単にテクノロジーを学ぶだけではなく「人間にしかできないものをしっかり学ぶ機会を作る」と語る。デジタル人材育成の構想も、桜田氏をはじめとした同社の経営陣が旗振り役となった。
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