閑静な住宅街として知られる東京都世田谷区上野毛。ここを創設の地とするのが、日本有数の芸術大学である多摩美術大学だ。大半の学部は東京都八王子市のキャンパスへ移ったため、幾分ひっそりとしているものの、上野毛キャンパス内の柱に貼られた「映画制作のスタッフ募集」のポスターや画用紙を持った学生が歩く姿は芸術大学そのものだ。

 11月初旬、そんな多摩美の小ホールに、約30人の社会人の男女が集まり、プレゼンテーションに臨んでいた。5人グループに分かれ、自分たちが課題と思うことを基にした事業やサービスの概要を発表していく。

 「今後、日本で神社が消える可能性があるので、お参りを後押しするアプリを配信したい」「特別な紅茶を届けることで、家族の中で改めてコミュニケーションを取る方法を模索したい」

 集まっているのは三菱商事や外資系コンサルティング会社、大手メーカーなど日本を代表する大企業のエリート社員たちだ。なぜ、いま多摩美にエリートたちが集うのだろうか。

多摩美術大学には週末、社会人たちが集う
多摩美術大学には週末、社会人たちが集う

 社会人たちが通うのは、多摩美術大学が2020年11月から始めたTCL(多摩美術大学・クリエイティブ・リーダシッププログラム)だ。TCLは3カ月のプログラムで、現在は4期生の課程が修了、22年1月に5期生のプログラムがスタートする。定員は30人で、面接などで選考する。

 参加者たちは3カ月の間、土日にみっちりと詰まった講座を受ける。午前中にデザイン経営やデザイン思考の基礎を学び、午後はグループに分かれ、企業のパーパス(存在意義)などを議論する。社会に転がる具体的な課題を見つけるといったワークショップなどを経験し、その場で教授陣からのフィードバックを受ける。プログラムはゼロからイチを生み出す考え方を身に付けるため、感性に基づく思考、具体的な課題の設定、デザインを生み出すプロセスなどを学んでいく。

 三菱商事に勤務し、一般社団法人ふくしま逢瀬ワイナリーの仕事に関わる佐藤裕太さんは「学生時代や会社の研修でデータ解析やプログラミングなどの経験はある。だが、それらを使って何を作るのか。発想仕方を学び、イノベーションを生み出したいと思いTCLを受講した」と話す。

 生徒に助言する教授陣のメンバーも豪華だ。サントリーの茶飲料「伊右衛門」やヘルプマークのデザインで知られるHAKUHODO DESIGN社長で同大学教授の永井一史氏やデザイン思考に関する著作でも有名なデザインディレクターの石川俊祐氏などが名を連ねる。

生徒たち自らが課題を見つける
生徒たち自らが課題を見つける

 プログラムでまず学ぶのが、1本のボールペンでとにかく描いて使い切る、という基礎プログラムだ。

 同大学の濱田芳治教授は狙いをこう話す。「美大の学生の特徴は手を動かし、印象や動きをスケッチして1本のボールペンを使い切ること。この授業では自分が何を好きなのかといった『美意識』やモノへの『観察力』を高めてもらう」と話す。

 社会には多くの課題が転がっている。こうした大きな社会課題をぼんやりと捉えるのではなく、自らが握るボールペンで物事を具体的に捉えるスキルを身につける。

続きを読む 2/2 「デザイン思考」という新たなスキル

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