「人材投資について抜本的に強化していきたい。3年間で4000億円の政策パッケージを新たに創設する」

 衆議院議員選挙後に新内閣が発足して間もない11月12日、岸田文雄首相は東京都内で企業の幹部らと人材育成についての意見交換を実施し、デジタル化に向けた人材育成を国として後押しする方針を示した。

 デジタル技術があらゆる業界にとって不可欠となり、IT人材は慢性的に不足している。企業経営者を悩ませるこの課題の解決策の一つとして注目を集めるのが「リスキリング」だ。

 リスキリングとは、企業が今後必要となる仕事上のスキルや技術を、社員を再教育して身に付けさせること。あるいは個人が新たな職業に就くために必要なスキルや知識を獲得する取り組みを指す。アルファベットで書くと「reskilling」となる。

 これまで手掛けた業務の延長線上にある能力を向上させる「アップスキリング」とは異なる。社会人が大学などで学び直す「リカレント教育」とも似ているが、リカレントは仕事を離れて学ぶのに対し、リスキリングは仕事をしながら学ぶ点が違う。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)や脱炭素社会の構築に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)など変化が激しい現代社会において、企業が従業員に求めるスキルもまた急速に変わりつつある。新たな技術やツールの登場で、置き換えが必要になったスキルの持ち主もいるだろう。

 そうした人材に、「新たな武器」を持たせ、異なる領域で活躍してもらうことで、人材やスキルのミスマッチを解消し、組織としても強くなる。それがリスキリングの狙いだ。

スキルのミスマッチが拡大

 日本でも注目を集めているリスキリングだが、先行するのは海外企業だ。米AT&Tは2013年、20年までに10億ドルを投下して10万人の従業員をリスキリングすると宣言した。その後、米アマゾン・ドット・コムや米マイクロソフトも従業員の再教育支援を打ち出した。

 20年には世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、人工知能(AI)の普及など「第4次産業革命」に対応するため、リスキリングの必要性が提言された。30年までに世界で10億人のリスキリングを支援するプログラムの立ち上げが決まった。世界の人口の8人に1人を対象とする壮大な計画がぶち上げられた。

 日本とは異なり、戦力にならない従業員を解雇しやすい環境にある海外企業で起こるリスキリングのムーブメント。働き方改革を進めている企業が増えてきたとはいえ、なお終身雇用の色合いが濃い日本では、今働いている従業員の能力をいかに生かすかが企業の将来を左右する。

[画像のクリックで拡大表示]

 三菱総合研究所の予想では、30年に事務職や生産現場の人材が210万人過剰となる一方、専門技術職は170万人不足するという。新型コロナウイルス禍による社会全体の急激なパラダイムシフトもあり、IT人材を中心としたミスマッチは拡大する一方だ。従業員を鍛え直すリスキリングが喫緊の課題となっている。

次ページ ビズリーチ・リスキリング調査(企業編)