新型コロナウイルスが日本でも広がり始めた2020年3月、育児休暇中だった佐久間直未さんは復職の相談をしようと東京・東中野にある勤め先を訪ねようとしていた。勤務先は就職活動のイベントや学生の留学支援などを手がける家族経営に近い小さな会社だ。佐久間さんは18年12月に出産し、その後、育児休暇を取得していた。

 だが会社に連絡すると、すでにオフィスを引き払ったという。来てほしいと示された場所は、同期が住む1LDKのマンションの一室だった。一人暮らし用の部屋には、その場に似つかわしくない複合機とキャビネット、そして会議室用の大型の机が置かれていた。机の向かいには、社長と同期が座っていた。「オフィス代わりに社員の部屋を使うとは」。佐久間さんは会社が置かれている状況を理解した。

 佐久間さんが育児休暇を取得している間に、会社の収益は急速に悪化していた。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、就活イベントは軒並み中止となり、留学に行く人もいなくなって、柱としていた事業は壊滅的な打撃を受けた。復帰を模索していた佐久間さんに対し、社長は「育休から復帰してもどこまで給料を払えるか分からない」と言った。居心地がよい会社だったが、退職しか選択肢はなかった。

佐久間直未さんは育児休暇からの復帰を目指していたが、コロナ禍を受けて断念し、現在は個人事業主として働く(写真:竹井俊晴)
佐久間直未さんは育児休暇からの復帰を目指していたが、コロナ禍を受けて断念し、現在は個人事業主として働く(写真:竹井俊晴)

 佐久間さんは現在、個人事業主としてウェブデザインの仕事や婚活カウンセラーとして働いている。コロナ禍で職を失いながら今も働くことができているのは、育休時に身につけた新たなスキルのおかげだ。

 コロナ前には、就活イベントのウェブサイトを制作することが多かった。その際、ウェブサイトの制作会社とサイトのデザインや機能などについて交渉することもあり、専門知識を身につける必要性を感じていた。「育休を取らせてもらうからには、ITスキルを習得することで、なんとか会社に還元したいと考えていた」と短期のウェブデザインの講座に通い始めた。

 
「個人事業主になるとは思ってもみなかった」と佐久間さんは話す(写真:竹井俊晴)
「個人事業主になるとは思ってもみなかった」と佐久間さんは話す(写真:竹井俊晴)
 

 佐久間さんが利用していたのが、計5回の講座でウェブデザインの基礎を学ぶタイマーズ(東京・渋谷)の提供するサービスだ。同社のサービスの特徴は、自宅まで無料でベビーシッターが来てくれることだ。週に1回の授業の間、親は授業に集中でき、子供はシッターの元で安心して過ごせる。目の離せない子供を抱える親が利用しやすい仕組みだ。これまでに2000人以上が受講している。

 佐久間さんは授業でコーディングの基礎やバナー制作の方法などを学んだという。現在は、ウェブサイトや動画サイトの画像制作などを手がけている。動画編集など新たな仕事を依頼される場面も増え、動画編集講座の受講も始めた。来年以降は配偶者控除を抜け出すのが目標だ。「会社員だったはずが、思わぬ形で独立することになった。育休の間にデジタルのスキルを身につけていてよかった」と佐久間さんは話す。

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