従来の広告は「見ている人数が分からない」「性別や年齢などターゲットを細かく狙えない」という課題があったが、それが当然だと受け入れられていた。しかしコロナ禍でネット通販の存在感が高まり、ネット広告による表示数の算出や「ターゲティング広告」と比較されるようになる。関係者は「人通りが多い目抜き通りや、1日10万人が乗り降りする駅というだけで、広告主は満足しなくなっている」と明かす。

 サイバー・コミュニケーションズの調査によると、20年のデジタルサイネージ広告市場は前年比3割減の516億円。コロナ禍で大きく減少したが、22年に19年の水準に回復し、その後伸びていくという見立てだ。リアル広告でも、広告の費用対効果が分かりやすい媒体への投資が高まっていくとみられている。

ローソンは「好みの広告」を選んでレシートに配信

 ローソンは2022年3月から、レシートやアプリに、消費者に刺さりやすい広告を選んで配信する事業を始める。従来のレシート広告は、Ponta(ポンタ)やNTTドコモのdポイントの会員のうち、コンビニを利用する数千万人の購買データや性別、年代、価値観を基に、特定の商品に興味がありそうな会員をリスト化。レジで購入した会員が、リストに該当する場合に広告を発行していた。

 新たな取り組みは、AIを用いて複数の広告を使い分ける。購買データ、性別、年代、価値観から、ある商品を購入した会員の特徴を抽出。まだ買っていないが購入しそうな会員をリスト化し、用意した複数種類の広告から、会員の価値観に合ったデザインとキャッチコピーの広告を選択して発行する仕組みだ。

来店客の価値観に合わせやすいように複数デザインされたレシート
来店客の価値観に合わせやすいように複数デザインされたレシート
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 今年8月にお菓子の新商品で実施した実験では、20万人に対して3種類の広告から好まれそうなデザインを選んで配信した。会員全体の平均購入率に比べ、AIが抽出した会員の購入率は4倍、さらにレシート広告を発行すると12倍まで高まったという。

 新型コロナウイルスの感染状況が落ち着けば、広告を見た人のスマートフォンにより詳細な広告やクーポンを配信するような、リアルとオンラインを融合させた手法も出てくるとみられている。

 人出が戻りつつある今、ネットからリアルに広がるアフターコロナの広告競争は激しさを増していく。

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