成長の踊り場に立つコンビニエンスストア業界が、物を買うだけでなく「情報を得る」場所への進化を模索している。ファミリーマートは、親会社の伊藤忠商事と共に9月、広告などを配信するメディア事業を展開する新会社を設立した。

 米国では、アマゾン・ドット・コムの台頭に苦戦してきたウォルマートが、「米国民の9割が、店舗の10マイル圏内に住んでいる」という店舗網を生かし、広告事業を収益源に育てつつある。「店舗のメディア化」は小売りの新たな潮流となるのか。

 東京都港区にある「ファミマ!! 青山ビル店」には、1年ほど前からレジ上部に大型モニター3枚が掲げられている。売れ筋商品やキャッシュレス決済「ファミペイ」などの広告のほか、テレビドラマなどの娯楽情報や天気予報、ニュースを放映している。

 ファミリーマートが目指すのは、単なる看板の電子化ではなく、「店舗のメディア化」だ。来店客へ有益な情報を配信する媒体というイメージを持ってもらい、広告効果と来店頻度の向上を狙う。伊藤忠商事第8カンパニーの中元寛ゼネラルマネジャーは、「広告だけ流していると『必要がない情報』という印象を来店客に与えてしまう」と語る。

 両社は2020年、NTTドコモやサイバーエージェントと、デジタル広告配信を担うデータ・ワンを設立。21年9月には、ファミリーマートが7割、伊藤忠が3割出資して、メディア事業を担う新会社ゲート・ワンをつくった。この2社が連携して、店舗のデジタルサイネージ(電子看板)に広告などのコンテンツを配信するメディア事業を本格展開する。22年春までに、サイネージの設置店を3000店舗に広げる計画だ。

 なぜコンビニがメディアを目指すのか。背景には業界が直面する「成長の踊り場」がある。新規出店で成長してきたモデルは行き詰まり、オーナーの高齢化や24時間営業の限界など様々な課題が山積する中で、どう収益を伸ばすのか。参考にしたのが米ウォルマートだった。

小売りはメディアに向いている

 米アマゾン・ドット・コム相手に苦戦してきたウォルマートは「1週間に1.5億人が訪れる」という約4700の店舗網を生かし、広告プラットフォーム事業を展開している。店舗の壁面や決済端末に設置したサイネージなどにメーカーの広告を出す。19年にデジタル広告スタートアップの買収を公表し、その後も関連分野の提携や買収を進めてきた。国内に約1万6600店舗を持つファミリーマートも、実店舗の顧客接点を生かせるのではないかと考えた。

 伊藤忠とファミリーマートは約1年前に100店舗で実証実験を始めた。1万5000人を対象にしたアンケートや、サイネージに設置した人工知能(AI)カメラのデータを分析すると、イートインスペースに置いたタブレットや、棚に設置した中型モニターの視認率は5~10%ほどにとどまったが、来店客が必ず立ち寄るレジ上は平均約50%と高かった。

 ファミリーマートの強みは、販売データを活用した分かりやすい広告効果だ。広告を見た人は見ていない人に比べて「購買意欲」が最高で1.6倍に上昇し、ほかの媒体よりも高い結果を出した。また、サイネージ設置店では広告対象商品の売り上げが非設置店より2割強増えた。伊藤忠の中元氏は、「強い顧客接点と、販売データを持つ小売業は、広告メディア事業と相性がいい」と手応えを語る。

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