母子手帳に社会人になった時の検診データ、診療所にある電子カルテ……。日本の医療情報は多くの診療所や病院に眠っており、個人情報保護法に基づいて利活用されてきた。とはいえ、患者の同意を取得する必要があるなど、法律上の様々な制約事項があり、なかなかデータの活用が進んでこなかったのが実情だ。
その法的な課題を解決する手段として、2018年に制定されたのが「次世代医療基盤法(次世代法)」。プライバシー保護の法制度などに詳しい水町雅子弁護士は「次世代法は個人情報保護法の特別法としてこれまで認められてこなかったものを上書きする法律になる。個人情報保護法が1階にあたるなら、次世代法は2階部分にあたる」と話す。

データの利活用に不安を抱く患者は少なくない。そのため、次世代法では「認定匿名加工医療情報作成事業者(認定事業者)」が利活用の運営を担う。認定事業者は政府の定めた安全管理基準、匿名加工技術といった厳格な基準をクリアする必要がある。
では、次世代法で何が実現できるのか。
様々な医療情報を認定事業者が収集し、利活用したい医師や研究者らの研究計画に基づき、認定事業者の運営する倫理委員会がリスクを評価する。その後、認定事業者が提供の可否や匿名加工のレベルを決定し、認定事業者側が患者本人を特定されないよう匿名化する。このプロセスを経た上で、利用したい側に医療情報を提供する仕組みだ。
これにより、研究者自ら医療情報を集めることや、各研究者の所属する大学や病院内の倫理委員会等への申請などの手間が省け、研究に注力できる。例えば、新型コロナウイルス感染症の治療、新薬の開発や抗がん剤治療の研究、希少疾患を始めとした様々な研究に役立てられるという。
政府は現時点で2つの法人を認定事業者として認め全国の医療機関などから医療情報の収集事業を始めてはいる。だが、ロケットスタートにはならず、医療情報の収集や整備に苦労している。
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