日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)の司令塔となるべく動き出したデジタル庁。山積する課題を前にどう立ち向かうのか。デジタル庁で国際戦略総括を務める座間敏如氏に、DXを進めるための重要なポイントについて話を聞いた。
日本が抱えるDXの課題は何だと思いますか。
座間敏如・デジタル庁国際戦略統括(以下、座間氏):まずはデータでしょうね。DXの時代、データは「オイル(原油)」という認識は相当広がったと思いますが、未精製の原油みたいな状態で価値を出せと言われても難しい。
例えば法人情報です。正式名称や略称、前株、後株など表記の揺れがあるとデータベースから必要な情報を見つけることが難しくなる。Code for Japan Summitの名物コーナーに「BADオープンデータ供養寺」というものがあります。苦労させられたバッドデータを持ち寄って供養する、すなわちデータとして扱いやすくする事例を共有するものです。
その中で紹介されたのが、会社名を記入する欄に、「要注意」や「閉鎖」など付け加えてしまうケースです。入力した人は良かれと思って、追加情報を入れてくれたと思うのですが、データを処理する際に別会社の扱いになって照合できなくなります。さまつな話に聞こえるかもしれませんが、これをきれいにしながらデータを使おうとすると手間がかかり、かなり深刻です。
契約書の管理をデジタル化する取材でも、同じ話題が出ました。契約書の期日や概要を整理しようと、手入力していると担当者ごとに「揺れ」が生まれて、結局一つずつ確認しないと、目的の契約書にたどり着けないと。
座間氏:データを共有する際の基準として、「FAIR原則」というものがあります。Findable(見つけられる)、Accessible(アクセスできる)、Interoperable(相互運用できる)、Reusable(再利用できる)の頭文字です。
ただ、こういうと、「見つけやすくするためにフォルダ分けをして格納しましょう」という話になりがちです。昭和の整理学とでもいうような。国の行政文書管理も年度で分けるなど、同じ傾向があります。
ファイル名の基準を守りましょうとか、定期的にフォルダは整理しましょうとか、それで生産性が高まるでしょうか。そうではなくて、ファイル作成者や更新年月日など自動で付与される「メタデータ」は、分類に役立つ情報となります。これを検索に使えばいい。この課題は、行政に限らず、企業でも存在しているのだと思います。

似た話が、クレディセゾンのコールセンターでありました。同社は顧客対応を行うオペレーターが使うマニュアルシステムを刷新しているのですが、2万ページもあるマニュアルがフォルダ分けして格納されていて、検索しづらいと。ただ、ベテランはフォルダを使い慣れているので、フォルダを残しつつ、検索性も高めたようです(関連記事:総合職をIT人材に、クレディセゾンの育成術)。
座間氏:私が米国に拠点を置くコンサルティング企業で勤務をしていた頃は、「ナレッジ」の蓄積という業務がありました。プロジェクトの概要として、何にチャレンジしたか、どんな困難があったか、どう解決したか、そして成果は何かを決まったフォーマットに入力していました。手掛けた案件が無事に決着しても、その情報を登録しないと案件完了と認められなかったのです。
記入するだけなら誰でもできますが、曖昧な内容があると専任担当者から「顧客は政府なのか、民間なのか」「サービスの利用者は職員なのか国民なのか」「どのようなソリューションを使ったのか」と質問が飛んできました。コンサルティング企業として、課題解決の知見を共有するため、検索性を高めることが徹底されていました。
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