日本の約11倍もの人口を抱えるインド。大都市でも道路に牛やラクダが歩く牧歌的な風景を残す一方、IT大国としての実力はだてではない。米GAFAで活躍してきたワールドクラスのエンジニアらが、自国にUターンして技術開発を担っている。日本が参考にすべきは、政府のシステムを民間に開放してイノベーションを促し、官民の壁を打破する姿勢だ。
「政府の個人認証システムに金融業界のネットワークをつなぎ、弱い人々が中間搾取されないルートができたんだ」。インド政府の情報管理機能と民間サービスをつなぐシステム「インディア・スタック」を設計したサンジェイ・ジェイン氏は、オンライン取材で目を輝かせた。同氏はかつて米グーグルで「Googleマップ」を開発したすご腕エンジニアとして有名だ。インド政府に請われ、約10年前から仲間と共に母国のリープ・フロッギング(いきなり最先端の技術を実装すること)を担ってきた。
記者にジェイン氏のことを紹介してくれたのは、東京大学未来ビジョン研究センターの西山圭太客員教授。1年前まで経済産業省の商務情報政策局長を務め、官民が協力体制を築いているインディア・スタックについて研究してきた。「電子政府の例でよくエストニアが語られるが、小規模だから可能なのではと懐疑的な見方もつきまとう。実は大国での先進事例はインドだ」と同国の取り組みを絶賛する。

人口約133万人のエストニアに対し、インドは約13.7億人と世界2位。そして国民の92%に相当する12億人超が、アダール(Aadhaar)という個人識別システムに登録している。12桁の個人番号に氏名や生年月日をひも付け、指紋や目の虹彩も登録されている。このアダールが、インディア・スタックというシステム全体の基礎となっている。
日本のマイナンバーカード取得と同じように、アダールも個人が登録するかどうかは義務でなく任意だ。それでもこれほど普及したのは、2つ要因がある。1つ目は切実なお金のニーズ。かつては政府が農家や貧困層に100の補助金を出しても、不当な中抜きで本来の受給者に渡るのはわずか8程度ともいわれた。
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