9月1日、ネット印刷や物流サービスを手掛けるラクスルは、企業の情報システム担当の負荷を軽減する新たなサービス「ジョーシス」を発表した。オンラインやクラウド経由でソフトを利用するSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の管理や、従業員の入社や退社に伴うアカウントの設定などが一括でできるサービスだ。

 新型コロナウイルス禍で在宅勤務が一気に進み、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)も進む。一方で、そのしわ寄せが及んでいるのが企業の情報システム(情シス)担当者だ。かつてはセキュリティーリスクを考慮してパソコンの持ち出しを禁じていた企業も多かった。だが、リモートワークを余儀なくされ、従業員が在宅で仕事をするためのパソコンの設定をしたり、利用が増えるSaaSの管理をしたりするなど、情シスの業務は爆発的に増えている。

 ただ、IT人材は社会全体として足りておらず、企業の情シス担当者も慢性的に不足がちだ。デル・テクノロジーズ(東京・千代田)の「IT投資動向調査」によれば、社員が100~1000人規模の企業において、専任の情シス担当が1人しかいない「ワンオペ情シス」は14%、専任がいない企業は17%にのぼった。3割の企業がワンオペ、もしくはそれ以下という悲惨な状況だ。

100~1000人規模の企業の3割が、情報システム担当が1人、もしく専任の担当者がいない状態だ(写真はイメージ、写真:PIXTA)
100~1000人規模の企業の3割が、情報システム担当が1人、もしく専任の担当者がいない状態だ(写真はイメージ、写真:PIXTA)

 「総務部の担当者が兼任」という企業も少なくないだろう。IT人材が慢性的に不足しているのに加えて、管理部門はコストセンターであるため、経営者が人材投資に踏み切れない部分もある。業務が集中して負荷が高まることに嫌気して、退職してしまうケースも少なくない。担当者が変わる際の「引き継ぎマニュアル作成」も情シス泣かせな仕事の1つだ。業務やノウハウが属人的になりやすく、担当者の退職は企業にとって大きなリスクにもなり得る。

 ミドリムシでおなじみのユーグレナも、専任の情シスがいない会社だ。総務部に相当する管理部euglee課が担当しているが、専任はいない。euglee課の薗田玲子課長とメンバーが兼任している状態だ。昨年までは情シス部門があり、担当は薗田さんを含めて3人いたが、家庭の都合などにより2人が退社し、ワンオペ情シスに。組織変更もあって情シス専任はゼロになったという。経験者だった薗田さんが中心となって管理部のメンバーが兼任し、グループ全体で450人の組織をみる体制だ。

 「パソコンが壊れたかもしれない」「パスワードが分からない」「ブルーライトをカットする眼鏡って経費で買えますか」といった従業員からの問い合わせへの回答や、入社や退社に伴うアカウントの管理、貸与するパソコンの設定、主流のもので22種類ある利用中のSaaSの管理も、薗田さんたちの仕事だ。

 「トップは情シス担当者の不足や重要性を理解してくれている」と薗田さんは話す。ただ「日々の業務が多すぎて、減らすために何をすればいいのかを考える時間もない」と苦笑する。

 こうした企業が抱える課題を解消するサービスが、冒頭のラクスルのジョーシスだ。ユーグレナは春先からジョーシスのプロトタイプをテスト導入。「アカウント管理を一元化でき、情シスへの質問にはチャットボットを活用するなどして業務効率が上がった」と薗田さんは笑顔で話す。

 ジョーシスでは会社が貸与するパソコンについて、購入から初期設定までを済ませてストックするサービスも準備している。パソコンを購入して設定する手間が省け、設定を終えた端末は社員の自宅まで発送するので情シス担当者が設定や手配のために出社する必要もなくなる。「(ジョーシスによって)IT・システム部門の業務量を20%程度削減できる」とラクスルの松本恭攝社長CEO(最高経営責任者)は語る。

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