誰でも高橋名人の16連射が可能に

手の指が1本増えると、どんなことができるようになりますか。

宮脇氏:私たちが開発した指はまだあまり力が入らないのですが、将来的にはパソコンのキーボードが高速で打てたり、6本指でピアノやギターを弾いたりすることができるようになるかもしれません。タコ足のようにグネグネ動く指、ながーい指、「ファミコン」の全盛期に「16連射」で一世を風靡(ふうび)した高橋(利幸)名人のように、超高速で連打できる指なども面白そうです。

 脳活動の計測が私の専門です。ヒトが本来持っていない指が追加されたとき、脳はいかに柔軟に適応し、可能性をどこまで広げられるかを探っていきたいと思っています。

宮脇教授らが開発した「第6の指」は腕に装着したセンサーで制御する
宮脇教授らが開発した「第6の指」は腕に装着したセンサーで制御する

3本目の腕や尻尾、ほしいですか?

指以外の部位も機械で追加できそうです。

宮脇氏:その通りです。稲見自在化身体プロジェクトの支援を受けて、早稲田大学で3本目の腕を追加する研究が進められています。このほか進化の過程でヒトが失った尻尾を機械で復活させたら脳活動はどうなるか、ヒトの進化とは無縁だった翼を背中に装着したら脳は順応できるのかといったことにも私は関心があります。

 これまでもヒトの脳は環境の変化に柔軟に対応してきました。例えばパソコンやスマートフォンの普及によって文字を手書きする機会が減り、漢字を書くのが苦手な人が増えています。このように近年、機械によってヒトの脳は確実に変化しています。ヒトにない部位を機械で身体に追加することは、脳を大きく進化させる引き金になるかもしれません。

身体の拡張が一般的になれば、社会にどんな変化が起きると予想しますか。

宮脇氏:世の中には先天的に指の数が多い多指症の人や、何かしらの理由で指を欠損した人がいます。けれどもアクセサリー感覚で「今日は手の指を機械で7本に拡張して外出しよう」といったことが当たり前の世の中になれば、5本指の手が普通で、それ以外は健常者ではないという従来の概念が崩れます。3本目の腕を装着した人が町中を歩き出すなどして、身体的な多様性をいまよりずっと高いレベルで許容する社会が到来するはずです。身体は自由に選べるのだという考え方が一般的になり、障がいという概念は一変するでしょう。

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