
今年のバレンタインデー翌日の2月15日、「東急プラザ表参道原宿」と「東急プラザ渋谷」に3日間の期間限定でポップアップショップがオープンした。店頭にはピンクのかわいらしいボードが掲げられ、思わず足を止める人も多かった。
ただ、足が止まった理由はデザインのかわいさというよりも、書かれたメッセージの内容だ。
「私たちのバレンタインは2月15日から始まります」
一目見ただけでは、その意味を理解するのは難しい。バレンタインデーは前日の2月14日が当日なのに、なぜ翌日から「始まる」のか。あえて通行人の足を止めるメッセージを出したのは、出店者のクラダシ(東京・品川)が手掛ける事業を知れば分かる。
クラダシは2014年に創業し、「もったいないを価値へ」をモットーに、ウェブサイトを通じてフードロスの削減を目指している。「社会貢献型ショッピングサイト」として自社で「KURADASHI」というサイトを運営。食品企業を中心に、通常の流通経路では販売できなくなった食品を買い取り、販売している。
バレンタインに限らず、クリスマスケーキや恵方巻きなど、イベントごとに食品が大量に作られる。小売店は廃棄よりも欠品を恐れる傾向が強く、その都度大量のフードロスが発生している。クラダシがバレンタイン翌日に掲げたボードには、イベントが終わった後にこそ、自社の役割があるとの強いメッセージが込められている。
イベント以外にも、日本には独特な慣習によるフードロスも発生している。それが「3分の1ルール」だ。製造日から賞味期限までを3分の1ずつ区切り、最初の3分の1の日までに、メーカーが卸などを通じて小売りへ納品。小売りは3分の2まで店頭で販売し、売れ残りは卸に返品するか値引きして販売、あるいは処分されるというものだ。賞味期限までまだ時間があるにもかかわらず処分される点で、日本のフードロス問題として見直す動きも出始めている。
ただ、1990年代あたりに大手小売りが導入して一般化した3分の1ルールの浸透は根が深く、いまだ多くの流通現場で残ったままだ。
まだ食べられるのに廃棄される――。そんな無駄を減らすべく、クラダシを立ち上げたのが社長の関藤竜也氏だ(当時の社名はグラウクス)。
クラダシは、フードロス削減に賛同する食品メーカーなどから商品を協賛価格で買い取り、自社サイトを通じて安値で消費者に販売する。サイトを見ると、市販と比べて半額近くまで引き下がった商品がずらりと並ぶ。販売価格の下には「支援金額」の項目があり「60円」「30円」といった数字が並ぶ。クラダシは売り上げの一部を環境保護や動物保護、フードバンクなどの社会貢献団体に寄付しており、支援金額は消費者が購入した場合に、支援団体へ回す金額だ。
消費者からすれば、一般の小売店舗で買うよりも賞味期限が近いものの、安く購入できるメリットがある。企業からすれば、フードロスを削減しつつ、その取り組みは持続可能な開発目標(SDGs)の啓発にもつながる。価格を下げて売るものの、社会貢献型サイトで販売することによって、ブランド価値の毀損を防ぐことにもつながる。消費者とメーカーそれぞれにメリットがある。
現在は食品メーカーに限らず、企業が社員向けに保管する防災備蓄食料の入れ替えの際に期限切れが近い食料をクラダシが引き受け、全国のフードバンクに提供する事業も始めた。また、3月31日には新潟県や新潟市と連携協定を締結。自治体とタッグを組んでフードロスの削減を目指すなど、クラダシはさまざまな団体から引っ張りだこの存在になりつつある。どのような思いでクラダシを立ち上げ、目指すべき点はどこなのか。関藤社長に話を聞いた。
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