処理した請求書1枚につき1円を子どもに関する問題に取り組むNPO法人フローレンス(東京・千代田)に寄付する取り組みはなぜ始めたのでしょうか。

横井氏:先ほどお話しした通り、もともと日本の子どもが置かれた状況に問題意識を持っていました。事業が大きくなり、より多くの請求書が処理されるようになるほど、直接誰かの役に立つ構造を作ることで、働く社員たちのモチベーションになると考えています。売り上げが少ない頃から寄付を続けています。

VCの出資を受けると意思決定がゆがむ

このような利益を最優先としない取り組みができるのは、ベンチャーキャピタル(VC)など投資家のお金があまり入っていないからでしょうか。

横井氏:今の段階でVCから資金を入れると、VCや株主の顔色をうかがって短期的な目標の達成のためにゆがんだ意思決定を求められるリスクがあります。会社売却や新規株式公開(IPO)のようなイグジットも現時点では目標にしていません。

横井さんは17年11月にクラウド記帳サービスのクラビスをマネーフォワード(東京・港)に売却しています。マネーフォワードで現在のようなサービスをやろうと思わなかったのですか。

横井氏:マネーフォワードはディープワークに少し出資していますが、会社の売却益など主に自分のお金で起業しました。ディープワークを起業したとき、マネーフォワードの辻庸介社長にもどうしてマネーフォワードグループでやらないのかと尋ねられました。

 ただ「サラリーマン」だとやる気が起きません。VCからの資金調達と同様に上場企業の子会社で目標を他者に設定されるのは嫌いです。常に自己ベストを目指す働き方が好きなので、組織の下で働くのにはなじまないタイプだと思います。

電子保存義務化に意味はない

今後、中小企業も含めて請求書などビジネス書類のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるために国は何をすべきでしょうか。

横井氏:まず、インボイス制度を機に、請求書のレイアウトと内容をある程度統一すべきです。請求書に個性を出す必要はない。電子インボイスを普及させるのも重要です。そうすればコンピューターで扱うことができるようになります。

 義務化なしではデジタルが苦手な経営者がシステムで電子請求書を発行するようになるまでに相当時間がかかります。韓国などはそこを義務化できるから一気に社会のデジタル化が進みますが、日本だと義務化は難しい。どこかで強制的に進めない限り、なかなかデジタル化は進まないと思います。

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