慎重な投資とリスクマネー供給という矛盾した役割
3つ目として、専門的な技術を持つベンチャー企業のリスク評価が難しいという課題がある。そもそも、多額の公金を使った官民ファンドでリスクテークと安全性のバランスをどう取るかは極めて難しい。
認定VCは公金を使っている以上、慎重な投資判断が求められる。一方で、民間VCが投資しないような先の見えない大学ベンチャーにリスクマネーを供給するという矛盾する役割も求められる。「民間だと起業まで2年以上あるような案件を支援することは難しいが、私たちはリスクを取って起業前の技術シーズを支援している」。大阪大学ベンチャーキャピタルの清水速水社長はこう話す。
そこで重要になるのが、専門的な技術を扱う大学発ベンチャーのリスクを評価できる人材だ。京都大学イノベーションキャピタルでは、一般的なVCでは目利きの難しい理系ベンチャーの将来性を適切に評価するため、社長以外の社員は全員理系出身だ。2人の投資部長はどちらも博士号を持っている。
しかし、技術を目利きできる人材をそろえるのは地方ほど難しい。京都大学イノベーションキャピタルでは、東京から単身赴任している社員もいるが、それは京大が母校への貢献に関心を持つ理系卒業生を多く有しているからこそ可能なことだ。同社は島津製作所から専門人材を出向してもらう形で支援を受けている。これもどの地域の大学でも可能というわけではない。
大学の下にあるために給与制度も柔軟性に乏しい。関係者からは「給与待遇で優秀な人材を採ることはできないし、成功報酬の制度もつくりにくい」との声が漏れる。トップ国立大以外で認定VCを運営するのは人材獲得の面で難しく、そうなれば技術の目利きと適切なリスク評価もできない。
上記のようにトップ国立大の認定VCは課題を抱えている。これらは認定VC特有の問題ではなく、これから国立大学が事業を手掛けていく上での課題となる。国立大学法人がいや応なく事業化に巻き込まれる中、認定VCが抱えてきた課題を一つひとつ解決していかなければ、日本の研究力の向上は到底おぼつかない。
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