国立大学法人が「稼げる大学」になることを求められている。そのための先兵とも言えるのが東大や京大、阪大、東北大がそれぞれ出資する認定ベンチャーキャピタル(VC)だ。しかし、認定VCは多くの課題に直面しているのが現実だ。

 国立大学法人の「事業化」の動きが進んでいる。世界と比較して相対的に低下している研究力や資金力を確保するのが目的だ。国は10兆円規模の「大学ファンド」の創設を打ち出しており、運用益をいくつかの大学に配分する計画を立てている。運用益配分の1つの条件は継続的な事業成長になるとみられる。2022年4月からはすべての国立大学法人が民間ファンドに出資する形で大学発ベンチャーに投資できるようになる。

 しかし、国立大学法人はもともと「稼ぐ」ことからはほど遠い存在だ。というのも、公的資金が投入されている国立大学法人は、企業への出資が原則として禁じられている。ただ、東京大学、京都大学、大阪大学、東北大学という国立大学トップ4校については、文部科学相と経済産業相が事業計画を認めた認定ベンチャーキャピタル(VC)への出資が認められている。

東京大学などの国立大学4校は認定ベンチャーキャピタルへの出資が認められている(写真:PIXTA)
東京大学などの国立大学4校は認定ベンチャーキャピタルへの出資が認められている(写真:PIXTA)

 これは14年の産業競争力強化法と国立大学法人法の改正で可能になった仕組みだ。政府は各大学に1000億円を拠出。4大学が出資した認定VCは、この1000億円と200億円以上の民間資金によってファンドを組成してきた。文科省によれば21年9月末時点で、認定VCが組成したファンドにより143の企業に約336億円が投資されている。

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 認定VCの動きは民間にとっても無視できない。例えば、三井住友銀行は早い段階から4大学すべての認定VCに出資してきた。現在では地方銀行も含む様々な金融機関が認定VCに出資している。

 21年1月に大阪大学ベンチャーキャピタル(OUVC、大阪府吹田市)が立ち上げた100億円規模のOUVC2号ファンドには京都銀行や滋賀銀行など民間の金融機関や企業8社が出資した。金融機関にとっては低金利が続き貸付業務以外で収益を上げなければならない中、長期では高いリターンを上げる可能性のある大学VCは魅力的だ。OUVC2号ファンドには、自らの事業とのシナジーがあるベンチャーを探す目的などで、大阪有機化学工業(大阪市)などの事業会社も出資している。

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