データサイエンティストになった後も学びは続く
私は今ハーバード大学が提供する「CS50」というコンピューターサイエンスのオンラインコースを受けています。8週間のプログラムですが自分のペースで進められ、今年の春に始めて足元でようやく5週目まで終わりました。
特に試験などはなく、毎回C言語でコーディングする重たい課題が3~4つあり(「クレジットカードの番号が有効なものかチェックするアルゴリズムを書け」など)、提出してチェックを通らないと次に進めない仕組みになっています。提出した課題は教師ではなく、プログラムが自動的にチェックしてくれます。
仕事しながらなので進み具合は遅いですが、着実に理解力と応用力がついているように感じます。こちらのコースは、新聞記者出身の私のように畑違いの分野からデータサイエンスに飛び込んだ人が、改めてコンピューターとは何なのかを学ぶためにオススメなコースです。
なぜなら私の通ったパリの大学院が提供しているような「データサイエンティスト急造コース」はいろいろと大事な基礎をすっ飛ばしているからです。CS50はビジネスよりもテクニカルな方面で知見を深めたい人にはなおさらオススメです。
海外に出れば選べるカードは増える
前職の日本経済新聞を辞める直前、取材で懇意にさせていただいたある大学教授が、東京でお別れ会と称した飲み会を開いてくれました。統計学を専門としている方でしたが、私に「ところで、どうしてわざわざ海外に行くんだ? データサイエンスを学べる素晴らしい大学院がすぐ近くにあるじゃないか」と言いました。
教授の指摘はまさにその通りで、東北大学の乾健太郎教授や東京大学の松尾豊教授の研究室など、最先端の教育と研究を実現できる場は日本にもあります。
しかし今振り返ると、私の場合、やはり日本を出て正解だったと思います。それは、海外に来たことで自分の目の前に並べることのできるカードが圧倒的に増えたからです。
まず、勉強中に参考可能な教材や情報量が多いことです。データサイエンスの世界は米国を中心に動いています。そこから波及する情報は99%が英語で、欧州でもそうした情報や教材を英語のまま使い回しています。
接点を持てるネットワークや企業の幅広さも同様です。大学の開くキャリアフォーラムには名だたるグローバル企業がブースを出し、青田買いをしてくれます。世界大学ランキングに載るような名の知れた大学を修了できると、いろんな国の企業をキャリアパスの選択肢に含めることができます。
さらに現実的な話をすると、フランスで学生ビザを既に保有していたため、特段の処置なく現地企業でインターンシップができた、ということがあります。現在働いているDataikuに入社する際、就労ビザに比較的スムーズに切り替えられたのも同じ理由です。このように「学生のうちから企業が雇いやすい立ち位置にいる」ことも重要なテクニックの一つです。
もしフランスでなく英国や米国を選んでいれば、このようなカードの枚数はさらに増えていたのではないでしょうか。
さて、私はフランスに来て4年たちますが、同じAIの分野で出くわした日本人はたった2人です。同じアジアの国からの仲間は大半が中国・台湾・韓国・インドなど。コロナ前はデータサイエンスやAIについて研究する何らかのMeetupやカンファレンスに毎月2回ほど顔を出していましたが、日本人を見かけたことは一度もありません。
Dataikuではフランスやドイツ、英国などを含めて合計で20社ほどのクライアントを担当してきましたが、どの企業のデータアナリティクスチームを相手にしても、日本から来た人と出会ったことはありません。
米国に目を向けると日本から来た人がAIの領域でもっとたくさん活躍しているのかもしれません。しかし私の感覚ではここ欧州でも、より多くの日本人と出くわしてもよい気がしています。英語に抵抗がない、海外でチャンスを得たい、グローバルな環境で働きたい、という人には海外への挑戦もぜひ視野に入れてほしいと願っています。
今回の連載「元日経記者がパリでAIエンジニアになってみた」はこれでおしまいです。読者の方から連絡を直接いただくこともあり、反響の大きさに驚いています。教育とキャリアを軸に8回分を執筆しましたが、まだまだ書き足りないことはたくさんあります。これからも皆様に面白いと思っていただける情報発信を日本の外側の視点から続けていきたいと考えています。今まで読んでいただき、ありがとうございました。
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