こんにちは。フランス発の機械学習プラットフォーム、Dataiku(データイク)という会社で欧州企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援している宮崎です。日本でAI(人工知能)など先端技術の教育を展開するzero to one(仙台市)のリサーチ担当もしています。
連載もいよいよ最終回を迎えました。これまで、欧州のデータサイエンス教育の最前線、就職事情、データサイエンスかいわいの職種とキャリアパスの考え方、インターンシップの重要性、オンライン教育や特徴的なカリキュラムを持つ「エコール42」を紹介してきました。最終回となる本稿では、日本のAI教育の歩むべき方向、そしてこれから教育を受けようと考えている皆さんの姿勢について、私なりの意見を書いていきます。
日本が急ぐべきはオンライン教育の充実
私は、日本のAI教育はオンラインを中心にコンテンツを充実させていくべきだと考えています。なぜならオンライン教育はスケーラブル(規模が拡大しても比較的対応が容易)で、ビジネスの現場で足りていないAI人材を急いで補うのに最適だからです。
とはいえ、スケーラブルなオンライン教育を実施するのは簡単ではありません。まず、この場合のオンライン教育とは「同期型」ではなく「非同期型」です。
「同期型」とは、教師と学生が決められた時間にオンライン上で顔を合わせながら授業を進める形式。つまり、時間割が決まっている形です。教員と受講生が同時にオンライン上にいる必要がある上、オンラインとはいえ、1人の教員が一度に数百人・数千人の学生を教えるのは無理があるので、スケーラブルではありません。
対して「非同期型」では、受講生が資料や動画にオンラインでアクセスし、自分のペースでカリキュラムを進めていきます。こちらはシステムさえつくってしまえば、学生数やカリキュラムをいくらでもスケールアップできます。足りない人材を急ピッチで育成できるだけでなく、時間に制約の大きい社会人にとっても適しています。
しかし、非同期型はカリキュラムの自動化やメンテナンスに加え、学生を管理するためのシステムを開発する必要があります。つまり実現するには同期型よりはるかに難易度が高いといえます。
AIやIoTなどの分野で非同期型の教育プログラムを開発、提供しているzero to one(私もリサーチ担当としてお手伝いしています)の竹川隆司CEO(最高経営責任者)によると「コロナ禍の米国で先端分野の人材育成に影響がなかったのは、非同期型で質の高いオンライン教材が整っていたため」だそうです。
AT&Tはオンライン教育で開発サイクルを40%短縮
社員にオンライン教育を提供した効果は実際に米企業で目に見える形で表れています。
例えば、少し前の事例ですが、AT&Tは2013年にCEOのRandall Stephenson氏(当時)が主導して「Workforce 2020」というプログラムを始めました。社員はオンライン教育プラットフォーム、Udacityにある25のコースの中から選択して受講でき、月200ドルの受講料は修了の際に支給されます。
同社はこうしたディグリーやナノディグリー(特定の分野や技術のみに特化し、短期間で取れる学位)に社員1人当たり年間8000ドルまで支給し、大学院で修士号を取得する場合は3万ドルまで支援しているようです。
すると16年1~5月の期間で、技術部門のマネジャーで空いたポジションの半数以上をこれらの教育を受けた社員を充当することで賄えたとのこと。また過去18カ月間でプロダクトの開発サイクルにかかる時間が4割短縮されたなどの効果がありました(これらの数字は16年時点のものです)。
- 2013~16年で教育・研修・開発に2.5億ドル投資。学費補助に年間3000万ドルを用意
- Udacityの25のコースの中から選択して受講。月200ドルの受講料は修了の際に支給
- ジョージア工科大学、Udacityと共同でコンピューターサイエンスの修士プログラムを立ち上げ。受講料は6600ドル
- 1人あたり年間8000ドルまで援助。大学院で修士号を取る場合は1人当たり3万ドルまで支援
- 2016年1~5月の間、技術部門のマネジャー募集の半数以上を社内人材で充当
- 過去18カ月間でプロダクトの開発サイクルが40%短縮
- 職種の見直し:250あった社内の職種を80に削減
- 報酬体系の見直し:固定給(年功)→成果・スキルベースへ
- 成果管理システム導入:評価、社内での職歴、学習履歴、スキルセット、空きポジションとスキルとの乖離などを表示
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