日本の教育システムの参考にも

 これは日本の社会が抱える問題への解決策にもなり得る教育システムだと思います。日本もフランスと同様の学歴社会です。そして実際のスキルの有無より「○○の資格を取得した」ことに信用が置かれる特徴があります。

 それゆえ、「ITパスポート」といった日本でしか通用しない、あまり意味のなさそうな資格でもそれを取得することが目的化しています。他方、実際の現場で即戦力となる人材はなかなか育っていません。

 また、日本では質の低い教育しか提供できない大学が乱立しています。低レベルでも「大学」と名のつく学校に入学する方が、高卒でいきなり就職するより好まれる傾向がいまだに強いです。これは若者にとって稼げるキャリアを積み上げる妨げになっているのではないでしょうか。多くの学生が実りの乏しい大学に4年間通うのは社会的な損失といえるでしょう。

 少子化が進んで若者が減っており、日本全体で見てもITエンジニアはまだまだ不足しています。そのような環境において、比較的小さなコストでより多くの人々を教育できるエコール42の教育モデルには、日本の教育関係者が参考にできる点が多いと思います。

もちろん留意点も

 もちろん、エコール42ではすべてが順調に進んでいるわけではありません。特に米国では入学者を集めるのに苦戦していると聞きます。「無料」であることがかえって教育の質に対して懐疑的な目を生んでいるようです。

 また、コンピューターの前に座って課題をこなしているだけでは、本物のビジネス感覚を身につけることは困難です。そのため、ITエンジニアとして企業の歯車の1つとしてクオリティーの高い成果物を生み出す人材を育てることはできても、リーダーシップを取ることのできる人材は育ちにくい。そのため、エコール42では在学中のインターンシップを義務にしており、また企業とコラボレーションしたハッカソンやカンファレンスなども積極的に開いています。

 エコール42で学ぶには自らを律する強い心を持ち合わせていることが不可欠です。学生同士が互いに教え合い、評価し合うP2Pの仕組み上、自分よりレベルの高い学生を見つけないとスキルアップにつながりにくい欠点もあります。

 ただこれは裏を返せば実際のビジネスの現場で日々起こりうることと同じと捉えられるでしょう。ビジネスにおいて、絶対的に正しい先生や回答は存在しません。互いに知恵を出し合って局面を打開する能力は、伝統的な学校という場では訓練できませんが、エコール42では日々鍛えることができます。

 私がパリキャンパスを訪問したとき、建物内をぶらぶらしていると、これまでに見たことのないほど美しく長いブロンドの髪をなびかせる後ろ姿が目に留まりました。うっとり見とれていると、その人がゆっくりと、後ろを振り向くそぶりを見せました。ゴクリ。一目ぼれしたらどうしよう……。

 首が回りきらないうち、ほんの心の準備をするつもりでまばたきをする私。瞼(まぶた)が上がったその先にいるのは、長髪のギーク男子なのでした……。

 そんな学生がたくさん闊歩するエコール42、20年には東京キャンパスもオープンしました。皆さんぜひ覗いてみてはいかがでしょうか。

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この記事はシリーズ「元日経記者がパリでAIエンジニアになってみて」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。