F1でおなじみのマクラーレンのデータラボを訪問
学校がビジネス系とエンジニア系の学生を両方入学させるのは、こうしたグループワークを通して学びの相乗効果を狙うためでもあります。「モデルAよりBの方がパフォーマンスがいいよね」「でもBは複雑すぎて説明しにくいから、シンプルなAの方がクライアントに好まれるんじゃない?」「Bも複雑に見えるけど、基本的には決定樹モデルに近似できるから説明は難しくないよ」……
ビジネスの場面を想定したデータサイエンスの応用方法を、異なるバックグラウンドを持った学生がディスカッションを通して学んでいくのです。もちろん、モデルの精度うんぬんよりも、プレゼンがうまい学生が結局は高評価をかっさらっていくのは想像に難くありません。これもまた、大事な学びです。

2年目のロンドン遠足では、F1でおなじみのマクラーレンのデータラボを訪問しました。レース中に膨大な量のデータをクラウドに上げず、その場でリアルタイム処理して最適なアドバイスを車やドライバーに与える、という最新の技術について少しだけ触れさせてもらうことができ興奮しました。このリアルタイム処理、前回の記事で説明したデータエンジニアが最も活躍する場面です。
こうした修士コースを提供する大学は欧米で年々増えており、1年か2年かといった違いはあれ、どこも似たようなカリキュラムの構成になっています。これらは「ビジネスにも明るいデータサイエンティスト」を急造させるプログラムと言えるでしょう。この人材が今足りていないのであって、まさに業界の需要増に応える形でデザインされたカリキュラムです。
輩出する人材は「ジェネラリスト寄り」
こうしたプログラムから輩出する人材像をより正確に表現すると、以下のようになります。
ビジネスにも明るい、ジェネラリスト寄りデータサイエンティストの卵
ジェネラリスト寄り、と書いたのは、こうしたカリキュラムではあくまで非常に広く浅くデータサイエンスのトピックをカバーしているだけだからです。特定の業界や技術を深く勉強することはしません。例えば保険業界のリスク算定でよく使われる「Tweedie分布」などには一切触れませんし、ディープラーニングに関する授業も10時間分くらいしかなかったと思います。
このような最新のアルゴリズムを勉強できるカリキュラムにすると、聞こえはよく、学生の興味も釣れるのですが、私はむしろ余計だと思います。なぜならどうせ仕事を始めてみると、その場その場で新しいアルゴリズムをどんどん勉強していくからです。一方で基礎を固めることのできる機会は大学で勉強している間だけです。
こうしたカリキュラムと、ビジネススクールの持つネットワークの強みが相まって、卒業生の多くはコンサル系の仕事にまず就いています。私のクラスでは3割くらいがマッキンゼー、ボストン・コンサルティング・グループ、Amazon Web Services(AWS)、Palantir(パランティア)、EYなどへ就職しました。
もちろん就職先はそれらに限らず多種多様です。もともとエンジニア系のバックグラウンドがある学生は、テック系スタートアップなどにエンジニアとして就職しています。ビジネス系のバックグラウンドから来た学生の中にはProject ManagerやCustomer Developmentなどのポジションに就いている人もいます。
ビジネス系の畑から来ていて、もっとエンジニア寄りのキャリアを歩みたい人もいるでしょう。そのような場合は、特定の産業に特化した知識でスキルをより強固なものにしたり、特定のトピック(レコメンデーションシステム、自然言語処理、画像診断など)についてスキルを深めていったりと、キャリアを積みながら自分だけの色をつけていくことが必要になってきます。
次回は「教師なし、教科書なし、授業なし」でAIをはじめとするエンジニアを輩出するフランス発の教育機関「エコール42」について解説したいと思います!
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