AIに関連する人材はざっくりと3種類に分けることができます。

 1つ目はAIの研究者。大学や企業の研究開発部門に所属し、新たなディープラーニングや機械学習のアルゴリズムをつくったり論文を執筆したりする人たちです。英語では「AI Researcher」といった名前で呼ばれており、コンピューター・サイエンスをはじめ、機械学習やディープラーニング、データサイエンスの分野で博士号を取得している場合が多いです。

 2つ目はAIを組み立てることができるエンジニア。様々な用途に応じて最適なディープラーニングや機械学習のアルゴリズムを選び、コーディングして商品化できる人たちです。大学で統計学やコンピューター・サイエンス、データサイエンスなどを学んだ人のほか、物理学や天文学、航空力学、建築などAIと接点のある学問領域と掛け持ちしている人もいます。企業内ではデータ・サイエンティストやマシンラーニング・エンジニアなどのポジションに就いています。

 3つ目はビジネスに関連する諸部門(経営企画、セールス、マーケティングなど)とAIエンジニアとの間に立つ人たちです。企業がビジネスで達成したい目標を把握し、それに対してAIがどのように貢献できるかを考える役割を担います。エンジニアがつくったAIのモデルがビジネス上の利益にかなうものかどうかチェックしたり、経営企画、セールス、マーケティングなど関連する部門の人たちにわかりやすい言葉でプレゼンをしたりするのも仕事です。特に決まった役職名はありません。端的に言えば、ビジネスとAIの双方について実用的な知識がある人たちです。

「エンジニアとビジネスとの懸け橋」が特に不足

 3つのうち特に不足感が強いのが2および3です。私がフランスで受けた教育も主に2と3の人材を養成するプログラムでした。特に3は企業や大学が最近になって注目し始めている人材です。

 なぜビジネスの各部門とAIエンジニアの橋渡しをする人材が必要とされているのでしょうか。

 それは、AI技術が高度であればあるほどいいわけではないためです。きちんとビジネスの目的に沿った使い方をしないと、せっかくの投資が無駄になってしまう恐れすらあります。

 わかりやすい例を一つ挙げたいと思います。在庫管理のツールを何も導入していない、とてもアナログな靴屋さんがあるとします。店主に一人のえせコンサルタントが近づいてきて、「最近話題の画像認識を使って、店内の靴を一品ずつ全部写真に撮れば、在庫管理がスマホ一台で簡単にできますよ。僕に開発を任せてみませんか」と持ちかけます。

 このAIの導入は明らかに無駄です。既に多くのお店が何十年もやってきているように、商品にバーコードやタグをつけて、それを機械で読み取るシステムを導入すれば済む話だからです。わざわざ誤認識の多い画像認識AIを高いコストをかけて開発してもらう必要は全くありません。

 最近は「AI」「機械学習」「ディープラーニング」といった言葉がバズワードとなり、より高度なAIを使うこと自体が目的化している事例があふれています。社長が「最近話題のエイアイとやらを使って、ウチも何かできないのか?」と指示すれば、本来ならばAIを使わなくても達成できる事業のコストがよりかさんでしまいます。

 さらに、エンジニアがせっかく開発してくれたプロジェクトをボツにしないためにも、ビジネスとAIエンジニアとの橋渡し役は必要です。ビジネス側の人間にとって、AIの中身はブラックボックス。エンジニアが役に立つAIをつくっても、AIがそれぞれの判断を下すに至ったロジックを説明しないことには怖がって使ってもらえません。AIのことを何も知らない人たちも理解できるよう、わかりやすく説明するのを手伝ってあげる必要があるのです。

 例えば患者の様々なデータを入力すると、その人ががんにかかる確率をはじき出してくれるすごいディープラーニングのモデルがあるとします。お医者さんはこのAIの言うことをそのまま信じるでしょうか? ディープラーニングがなぜこのような答えを出したのか、モデルの中を開けてその判断の過程をたどる必要があります。その作業を誰かがお医者さんとAIの間に入ってやらなくてはなりません。もしくは、初めからディープラーニングなどの複雑なAIを使わずに、もっと単純な思考回路で結論を出してくれるシンプルなモデルを使うのも手です。

 ビジネス側の言語とエンジニア側の言語の両方を知っている人材が間に入れば、コミュニケーションが円滑になります。こうしたことから、橋渡しをする人材の重要性が徐々に高まってきているのだと思います。

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