グローバリゼーションの逆回転が進む世界経済。国家や企業レベルで、敵対国との取引やサプライチェーン(供給網)上のつながりを断とうとする動きが急ピッチで進んでいる。インド準備銀行(中央銀行)の元総裁である経済学者、ラグラム・ラジャン米シカゴ大学経営大学院教授は「(友好国とだけ取引する)フレンドショアリングは危険」と指摘する。インフレーションは2024年初頭ごろまでは続くと予測する。日本を含む世界経済の行方について聞いた。
世界的にインフレーションが進んでいますが、どうご覧になっていますか。
ラグラム・ラジャン米シカゴ大学経営大学院教授(以下、ラジャン氏):インフレーションの行方に影響を与えている3つの力があると思います。1つは、景気が減速していることです。米国についてお話ししますが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)下では、モノが不足して価格が上がり、また人々はモノにしかお金を使えなかったため、物価が上昇しました。しかし、そのとき上がったモノの価格は著しく下がってきています。

2つ目は米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めで、これが威力を発揮しています。例えば住宅市場を見てみると、住宅ローン金利は2倍以上になり、着工が大幅に遅れ、販売の伸びも緩んでいます。
今、家を売ったら新しい家を買うのに余計にコストがかかるので、今住んでいる家は売りに出ない。住宅の需要も供給も減り、市場は明らかに減速しています。他のセクターもより慎重になっています。一般的に景気が減速していく中、特に金利の変動に敏感なセクターはトレンドが下降し、それがインフレ率を鈍化させます。
住宅市場は23年第1四半期までにマイナスへ
住宅はインフレの大きな割合を占めています。帰属家賃(持ち家を市場価格で評価した計算上の家賃のこと)のような指標は緩やかに下落する傾向があります。23年の第1四半期までには、住宅関連の数字がマイナスに転じるというのが大方の予想で、これもインフレを減速させる要因です。
インフレを緩める様々な要因の中で、誰もが注視するのが労働市場です。22年11月の米雇用統計を見ると、求人件数がまだ多く、需給が逼迫しています。直近の賃金上昇率の数字は、まだインフレ率を下回ってはいるもののかなり高いものでした。これがFRBの懸念材料となります。FRBは、労働市場の需給に余裕が生まれて賃金上昇が落ち着く見通しが立つまで、利上げをやめるわけにはいきません。
FRBは12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、利上げ幅をこれまでの0.75%から0.5%に縮小しました。その先は0.25%に引き下げるための根拠を探すことになるでしょう。労働市場に十分ゆとりができたと感じられたら、利上げを一時停止できます。賃金の伸びが大幅に低下するか、失業率がやや上昇するかのどちらかのときです。
今回の金融引き締めの結果は23年の6月か9月に表れる。だから、この先は引き締め過ぎに少し注意したいところです。また0.5%上げたら、いわゆる抑制強化の領域に入った、と多くの人が感じます。その時点から景気が悪くなっていくからです。
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