次に、サプライチェーンの地理的集中リスクを頻度という軸で考える。上述した付加価値貿易指標は、どの国のどの産業で生み出された付加価値が、どの国のどの産業の最終製品へどれほど組み込まれているかという、サプライチェーンの始点と終点の関係性を描出したものだ。

 しかし、財やサービスに体化された付加価値は、最終製品に組み込まれるまでの間、様々な国の様々な産業を経由する。ことに、地理的リスクということを考えれば、サプライチェーンがハイリスクな国の産業を経由する工程をいくつも持っているとなると、その脆弱性が高まることになる。

 そこで、ある製品のサプライチェーン上に、ハイリスク国の産業部門がどのくらいの頻度で登場するのか、という視点で地理的集中リスクを定義する。

 例えば図2のように、C国をハイリスク国とし、A国とE国を結ぶサプライチェーンのうち、C国の産業を通過する(需給関係がある)生産工程の経路が4本あったとする。すると、経路①では2回、経路②では1回、経路③では2回、経路④では1回、それぞれC国を通過しているので、当該サプライチェーンにおけるC国産業の平均的な登場回数は(2+1+2+1)÷ 4 = 1.5回となる。

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サプライチェーンの「通過頻度指標」とは

 ただし、現実のサプライチェーンは無数の経路を持っており、それらを1つひとつ見ていくわけにはいかない。そこで、国際産業連関表を用いた通過頻度指標「Pass-through Frequency (PTF)」を算出する(Inomata and Hanaka, 2021)。これは、あるサプライチェーンの経路上に、ハイリスク国の産業部門が登場する回数を、全ての経路について加重平均したものである。

 従来の集中度指標は付加価値貿易のようにもっぱら量的な概念に基づくものであるが、PTF指標は、ハイリスク国の生産システムに対するグローバルサプライチェーンの連関構造を「頻度」という新たな分析次元から捉えている。

 以下はこれら2つの指標を用いた分析結果である。分析では、自然災害多発国としての「日本」、そして、米中対立により地政学的リスクが高まる「中国」の2カ国をハイリスク国とした。

 まず表は、日本と中国それぞれに対するPTF上位20のサプライチェーンと、対応する付加価値貿易額を並べている(ただし、サプライチェーンは付加価値の源泉国と仕向け国が異なるもののみを対象とした)。

 例えば赤色で示した部分、これは、米国の自動車サプライチェーン(USA_29)が、台湾の「コンピューター、電子・光学機器」部門(TWN_26)を源泉とする5億7200万ドル分の付加価値を用いており、またそのために、平均値よりも5.58倍高い頻度で中国の産業と関わっているということを表している。

 さらに、その下の青色で示した部分、すなわち米国の「公務・防衛・公安」部門(USA_84)についても、台湾と韓国の「コンピューター、電子・光学機器」部門(TWN_26、KOR_26)を付加価値源泉とするサプライチェーンで中国の産業が非常に高いプレゼンスを示していることが分かる。

 同盟国を巻き込んで、ICT産業のサプライチェーンから中国の影響力を徹底的に排除するといった米国の一連の政策には、このような見えない部分での対中依存に対する恐怖感が根底にあるのではなかろうか。

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