
1990年代以降、急速に進展した経済のグローバル化という現象は、世界に多大な富をもたらした一方で、現在、米中対立や地球温暖化など様々な課題を我々に突きつけている。ことに近年、企業経営者や政策立案者の間で懸案となっているのが、不測の事態に対するサプライチェーン脆弱性の問題だ。
国際生産分業の進展に伴い、サプライチェーンの効率的な編成が突き詰められた結果、生産拠点が一部の地域へ極度に集中するような状況が生み出された。東日本大震災やタイの洪水、リーマン・ショック、サイバー攻撃など、モノの流れ、カネの流れ、情報の流れがネットワークの一点に集中し、そこが「急所=choke point(チョークポイント)」となって大きな被害へとつながった事例がいくつも思い起こされよう。目下、企業にとって部品や原材料の調達先を分散させることが焦眉の課題である。
そこで以下では、サプライチェーンの国際編成に関するリスク指標を紹介する。具体的には、分析対象地域(=自然災害多発地域あるいは地政学的リスクの高い地域など)に対するグローバルサプライチェーンの地理的集中リスクを計測する。
リスク評価で見るのは「量」と「頻度」
一般にリスク評価には2つの側面がある。1つは対象から受ける影響の「量(volume)」、もう1つはその「頻度(frequency)」。例えば、家族がウイルスに感染するリスクについて考えてみよう(図1-a)。家族全員で危険地域へ行けばむろん感染リスクは高くなる。一方、たとえ1人しか行かなかったとしても、その1人が何回もそこへ足を運べばやはり感染リスクは高まることになる。あるいは、より具体的な対照事例として、地震研究の分野ではマグニチュード(規模)と発生頻度との間の関係性「グーテンベルグ・リヒター則」が分析されている(図1-b)。
では、サプライチェーンの地理的集中リスクを、いかにして量と頻度の二軸で評価するのか。
まず、量的な集中リスクの計測には、グローバル・バリューチェーン研究の中核をなす付加価値貿易(Trade in Value-added)の指標を用いる。今日における生産活動は、多くの国の産業を取り結んだ需給ネットワークによって成り立っている。そして、各工程での生産活動により様々な国の様々な産業で付加価値が生み出される。
それは、最終組み立て工程における作業員や産業用ロボットへの支払対価に限らず、部品・付属品を生産する活動、それら部品の素材を生産する活動、その活動を支える活動、といった無限の連鎖の中で蓄積されていく。すなわち、我々消費者が手にするモノの1つひとつは、これら各国各産業による仕事への対価の総体として考えることができる。
付加価値貿易指標は、国際産業連関表というデータを用い、このような「価値の総体」としての製品をその生産工程ごとに分解し、各工程において付加された価値の国際的な流れを計測したものである。
ことに自動車や家電など最終製品を生産する企業の視点で、自社の製品(が属する産業部門)に、どの国のどの産業の付加価値がどれほど含まれているかということを数値化しており、いわばサプライチェーンの究極的な依存度、付加価値源泉の地理的集中度を量的な側面から表している。
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