コンピューター上で人間の脳の神経回路を数学的に模倣する「ニューラルネットワーク」の技術革新によって、飛躍的なスピードで進歩してきたジャンルの1つがAI(人工知能)による機械翻訳だ。ドイツのスタートアップ、DeepL(ディープエル)は2020年に翻訳対象に日本語を加え、日本で急速に存在感を高めている。同社のヤロスワフ・クテロフスキーCEO(最高経営責任者)が機械翻訳の可能性や今後のビジョンについて語った。

(聞き手は広野彩子)

ヤロスワフ・クテロフスキー氏
ヤロスワフ・クテロフスキー氏
独DeepL CEO(最高経営責任者)
ポーランド生まれ。10歳の時にコンピューターのコーディングを始め、個人的なプロジェクトに取り組んできた。ドイツのパーダーボルン大学でコンピューター科学の博士号(Ph.D.)取得。ハイテク企業数社を経て2017年に独ケルンでオンライン翻訳サービスのDeepLを創業。世界の数千社がDeepLを使っている。(写真=稲垣純也、以下同)

クテロフスキーさんがそもそも機械翻訳に興味を持たれたきっかけは何ですか。

ヤロスワフ・クテロフスキーDeepL CEO(以下クテロフスキー氏):それは翻訳という多くの人の重要な課題を解決できる技術がそこにあったから――というお答えになりますね。その事実にすっかり魅了されたのです。

 ポーランドに生まれ、ドイツとの間を何度も行き来しながら育ちました。ポーランド語が母国語ですが、長年ドイツに暮らし、現地の学校に通ったのでドイツ語も母国語に近いと言えます。異言語が身近にあり、幼い頃からいくつかの言語を使い分けて育ちました。翻訳は私にとってごく自然なことでした。

DeepLの翻訳精度は評価が高いです。ご自身がマルチリンガルで翻訳が必要な環境で育ったことが、素晴らしい気付きをもたらしたのかもしれませんね。

クテロフスキー氏:私自身は翻訳の専門家ではなく技術の専門家ですが、確かに、世界には異なる言語が存在し、多言語が存在するというのが、どのような状況なのかについてよく分かっています。素晴らしい翻訳をするのは時に、本当に難しいこともよく知っています。

ニューラルネットワークで進化

どのような技術がDeepL開発の突破口になったのでしょうか。

クテロフスキー氏:ニューラルネットワークの活用です。ニューラルネットワークをどのように設計し、実際にどう構築するかは、私たちの企業秘密です。ごく一般的な技術を使って、翻訳を飛躍的に改善させるノウハウも突破口に含まれますが、技術革新の最も重要な部分を担ってきたのはニューラルネットワークです。

 ニューラルネットワークの設計方法は常に変化しています。私たちはそれを「ネットワークのアーキテクチャー」と呼んでいますが、これが毎年のように進歩しています。

英オックスフォード大学の機械学習研究で有名なマイケル・オズボーン氏は3~4年前、かつては米グーグルの「グーグル翻訳」の質が一番良かったが、他の機械翻訳サービスも急速に発展したと話していました。

クテロフスキー氏:DeepLが登場した17年は、機械翻訳にニューラルネットワークが本格的に使われ始めた時期です。それ以前は他の方法を使っていました。ニューラルネットワーク活用の核となるアイデアは17年に登場したのですが、以来、目覚ましく進歩しました。