米テスラCEO(最高経営責任者)イーロン・マスク氏。足元は大丈夫か(写真=AFP/アフロ)
米テスラCEO(最高経営責任者)イーロン・マスク氏。足元は大丈夫か(写真=AFP/アフロ)

 2022年9月に経済安全保障推進法の一部が施行された。日本で経済安保といえばサプライチェーン(供給網)の強靱(きょうじん)化やエネルギーなど重要物資の供給確保といった政策課題が前面に出るが、欧米諸国では「フォーリンテイクオーバー」、外国勢力による社会経済基盤の乗っ取り問題が注目を集める。

 古来より、領土や生産要素の奪取には軍事力が用いられてきたが、近年では、サプライチェーンや重要インフラがパワー争奪戦の焦点となっている。その手段も金融市場での合法的な取引の中に紛れ込むというグレーゾーン事態が、未遂も含めて世界各地で確認されている。

 例えば、フィリピンでは送電事業を独占するNational Grid Corporation of the Philippines(NGCP)の株式40%と送電の運営権を中国政府直轄の国家電網(State Grid Corporation of China、SGCC)が保有する。

 その結果、SGCCの技術者でなければNGCPのシステムを操作できず、理論的には中国本土でフィリピンの送電を停止することが可能だという報告書がフィリピン議会に提出され大騒動になっている。

 こうしたリスクを膨大な投資案件やサプライチェーンの中から事前に察知することは困難だ。問題の解決に糸口を与えるのがデータ科学である。筆者は、計算社会科学を専門とする水野貴之氏(国立情報学研究所准教授)らとタッグを組み、ビッグデータを用いて新たな国際関係研究を切り開く研究を進めてきた。

 その一環として、株式投資を通した企業支配の構造を記述する数理モデルと計算アルゴリズムを開発し、フォーリンテイクオーバーやESG(環境・社会・企業統治)投資にまつわる危険度マップを作成している。これを用いて、サプライチェーンの脆弱性に着目して経済安保の練習問題を解いてみることにした。

米テスラのサプライチェーンを可視化

 ここでは成長著しい米テスラの基幹部品、リチウムイオン電池を題材にして、公知のデータを既存のデータ科学を使った従来の分析と、数理モデルで背後の戦略性を加味した解析とを切り分けて考えてみる。

 テスラへのサプライチェーンを可視化するため、まずファクトセットが販売するデータを使って21年にテスラと取引関係のあった9万5706社を抽出。そこからテスラの販売先などの下流を除去して、テスラに原材料を直接また間接的に供給する3万6076企業を抜き出し、それらサプライヤー間の18万6255通りの取引関係をつなぎ合わせるデータセットを作成した。テスラのサプライチェーンの全体像を、企業をノード、企業間取引をエッジとするネットワークとして可視化したのが図1だ。

図1
図1
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 大きなノードはテスラの直接の仕入れ元を、小さなノードは仕入れ元の仕入れ元や、さらにその上流の仕入れ元(つまり上流2リンク先以上)を示している。色分けは、仕入れ元の所在国を示し、ピンクは米国(24%)、緑色は中国(11%)、青色は日本(9%)、黒は韓国(6%)、オレンジは英国(5%)とした。ただ情報が多過ぎるので、これ以上のことは役に立たない。

 そこで、ここからテスラの基幹部品であるリチウムイオン電池のサプライチェーンだけを可視化した。それが図2だ。サプライチェーンの上流には紫色で示した希少鉱物採掘や精錬などの取引が行われ、中流で材料(水色)、機械(青)、部品(オレンジ)、ソフトウエア(緑)などが取引され、そして最下流にはテスラが位置している。

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