
昨年来、ジョブ型雇用がにわかに注目を集めている。これまでのいわゆる日本的な雇用システム・労働市場に内在する多くの問題を解決していくために、ジョブ型雇用の普及が大きなカギを握っていることを筆者は政府の規制改革会議雇用ワーキング・グループ座長(2013~16年)として、また、さまざまな著作を通じてこれまでも強調してきた。
再度、ジョブ型雇用が脚光を集めている理由・背景には、経団連がジョブ型雇用推進に積極的な発言をするようになったこともあるが、新型コロナウイルス下において、強制的に在宅勤務が進む中で従業員間の意思疎通や部下に対する評価など雇用管理上の課題が指摘されるようになったことが大きい。
しかし、昨年来の第2次ブームの中では、ジョブ型雇用が誤解されていると感じる場面も多い。その多くは定義に起因している。具体的には、ジョブ型の対義語をメンバーシップ型とするのはよいが、メンバーシップ型を日本的雇用システムの同意語としてしまう誤りである。
これでは、日本的雇用システムにはない様々な特徴について全てジョブ型のレッテルを貼ることができてしまう。解雇自由しかり、成果主義しかりだ。つまり、ジョブ型という言葉を使う人によっていくらでも新しい定義が可能となるのだ。
ジョブ型の概念を提示した労働政策研究・研修機構所長、濱口桂一郎氏が示した定義に戻ってみよう。彼は雇用契約に着目し、日本以外の雇用契約(ジョブ契約)には、職務(ジョブ)が具体的に明記されているが、日本の(大企業・正社員)の雇用契約(メンバーシップ契約)は「空白の石版」のごとく職務が明記されておらず、むしろ、その会社のメンバーとなる契約になっていると喝破した。
パートやアルバイトはもともとジョブ型
ここで注意が必要なのは、日本でもパートやアルバイトなどの非正規雇用はジョブ型雇用であることだ。原理原則を考えれば、職務は雇用契約において最も重要な要素であり、それが明記されているのはしごく当たり前のことだ。したがって、それが明記されていない雇用契約という概念自体、相当特異的、アクロバット的といわざるを得ない。
もう少し分かりやすい定義は、ジョブ型イコール「就職」(特定の職務に就く)、メンバーシップ型イコール「就社」(特定の企業のメンバーになり、その企業の職であれば何でも就く)という対比である。「就職」は普通の用語であるが、「就社」という言葉はそうではなく、特殊な概念だ。一方、ジョブ型=「仕事に人を張り付ける」(仕事本位)、メンバーシップ型=「人に仕事を張り付ける」(人本位)という定義も使われている。しかし、新卒採用はそうかもしれないが、異動や中途採用では、日本でも仕事に人を張り付けており、区別はあいまいだ。
筆者は、濱口氏と理解は何一つ変わらないと思っているが、日本の正社員を、職務、勤務地、労働時間が限定されていないと捉え、無限定正社員と呼んでいる。一方、その対立概念として、ジョブ型正社員を上記の3点のいずれかが限定された正社員と定義している。これはかつて政府の規制改革会議などで使われてきた定義だ。
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