在宅勤務は、生産性にどのような影響を与えるのか(写真:PIXTA)
在宅勤務は、生産性にどのような影響を与えるのか(写真:PIXTA)

 昨春、新型コロナ感染症が拡大する中、在宅勤務やリモートワークが急増した。その後も「緊急事態宣言」が発出される度に、できるだけ在宅勤務をするよう要請されている。それまで在宅勤務の普及は遅かったが、新型コロナという外生的ショックにより、リモート会議を活用した自宅での仕事が、ホワイトカラー労働者の間に広がった。

 こうした中、在宅勤務は長時間通勤からの解放を実現し、仕事と家庭生活を両立させる好ましい働き方だとする肯定的な見方、職場での緊密なコミュニケーションやOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を通じた新人・若手のスキル向上を困難にするという否定的な見方など、議論は様々である。新型コロナによる制約はまだしばらく続く可能性が高く、また、終息後の望ましい働き方を考える上でも、エピソードや実感ではなく、エビデンスに基づく対応が必要である。

 在宅勤務に関する実証研究は世界的に急増しており、在宅勤務が可能なのはどういう仕事なのか、実際に行っている人はどういうタイプの労働者なのかはほぼ明らかになってきた。

 米国を対象とした米シカゴ大学経営大学院のジョナサン・ディンゲル氏とブレント・ニーマン氏による共著論文「How Many Jobs Can be Done at Home?」が代表例だが、その後の日本を含む他国の研究もおおむね同様の結果である。産業別に見れば、情報通信業や金融業で在宅勤務が多く、対人サービス業や運輸業で少ない。

 また、在宅勤務者は大企業に勤める高スキル・高賃金のホワイトカラー労働者が多い。したがって、在宅勤務の増加は労働市場における格差拡大につながる傾向を持つ。

急増した在宅勤務、生産性は?

 しかし、在宅勤務の生産性についての実証研究は内外を問わず限られている。ホワイトカラーの生産性の計測が技術的に困難なことが大きな理由である。筆者は、労働者や企業に対する調査を通じて、在宅勤務に関するエビデンスを集めてきた(文末参照:森川正之、2021)。

 調査では、自宅での仕事の生産性が職場で働いていたときに比べてどの程度なのかを数字で尋ねている。主観的な評価なので精度には限界があるが、他の労働者との比較ではないので、自信過剰/過小に起因するバイアスは避けられる。

 2021年7月に、約8900人の個人を対象に実施した調査(うち雇用者は約4700人)に基づいて、1年前にあたる2020年6月の調査と比較した在宅勤務の生産性分布が図1である。ヨコ軸は職場での生産性を100とした数字で、100を超える場合は職場よりも自宅での仕事の生産性が高いことを意味する。

(注)2020年6月と21年7月の調査から、在宅で勤務する雇用者の主観的生産性(職場での生産性=100)の分布を示す
(注)2020年6月と21年7月の調査から、在宅で勤務する雇用者の主観的生産性(職場での生産性=100)の分布を示す
[画像のクリックで拡大表示]

 この1年間に分布全体がいくぶん右に移動していること、分布の下位(左側)が大きく縮小したことがわかる。結果として平均値は61から78に上昇した。

 ただし、2020年に在宅勤務をし、在宅勤務だと効率が悪いと感じて職場勤務に切り替えた人が一定数いるため、2021年の平均値を押し上げる「セレクション効果」があることに注意する必要がある。実際、雇用者の在宅勤務実施率は32%から22%へと低下しており、在宅勤務の生産性が低かった人ほど職場勤務に戻っている。

続きを読む 2/2 職場より在宅勤務の方が生産性の低い人が70%以上

この記事はシリーズ「グローバルインテリジェンス」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。